MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

INORAN / 「想」 J / 「PYROMANIA」

 LUNA SEAのギタリストによる1stアルバム(1997年)。

 

 れっきとしたソロ名義の一作目ながらも、海外の女性シンガーや男性ラッパーをゲストに迎え本格的なクラブ向けのサウンドを実践した作品。DJ KRUSHによるプロデュースや彼の静かながらも確かなギタープレイを下地にしながら、トリップホップダウンテンポ、ヒップホップにR&Bにジャジーといったムードある音楽性を柱にした、なんだか "ソロ作品" というよりも "サントラ盤" "オムニバス盤" という表現が近しいような、INORAN自身すらもまるで裏方に徹したような構造。本人が歌うのはシングル/タイトル曲のこれまた異色のレゲエ「想」のみだし、それも大人の事情でそうなったらしく本人的には歌いたくなかったそう。技量的には確かに加工では隠せない拙さはあるものの、曲調やメッセージに合っていると思うし、これが真ん中にどっかと鎮座していることでソロ作品としての意義を保ち、かつ全体を引き締めている気がするのだけどさてどうだろう。そもそもが97年のLUNA SEA活動休止時において彼はソロ活動推進派ではなかったらしく、その辺りを起因とする思考や感情が、当時なりの影響や野心へ自然と繋がったのだとしたら、こういった実験的意欲作が生み出されるのも当然なのかも。単なるLUNA SEAキッズだったリスナー(というか自分だ)にとっては、97年メンバーソロの中で最も驚きと戸惑いを覚えそうだけど、聴けば聴くほど当時の彼への(個人的かつ勝手な)イメージ──「寡黙」「目立たないけど重要な役割」だとか、でも「実はメンバーで一番熱い」だとか、そういった印象にすごく符合するし、年月を経た上で改めて向き合うとその味わい深さをより実感できる、何とも不思議な世界観/空気感を封じ込めた一作。

 

想

  • アーティスト:INORAN
  • Lastrada
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 ちなみに2011年にはジャケット一新・タイトル曲のボーカル再録・ボーナストラック1曲追加が行われたリイシュー盤がリリースされており、2022年にはサブスクも解禁。どちらにも違う良さがあるので、機会があれば原盤と聴き比べてみるのも一興。

 

 

 

PYROMANIA

PYROMANIA

  • アーティスト:J
  • Universal Victor
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 LUNA SEAのベーシストによる1stアルバム(1997年)。

 

 当時のメンバーソロの中でも最も分かりやすいというか、そうだよねうんうん!と諸手を上げて受け止めたくなる、そんな作品。彼の最大のルーツであろうハードロック/パンクロック/オルタナティブロックを、どこまでもストレートに自らの手で表現。彼らしい野性味や奔放な性格も手伝って、根っからのロック小僧に立ち返ったような実直な熱量を包み隠さず剥き出しで放出している様が圧巻。ベースやボーカルだけでなくギターも自身で弾き、その上でThe Cultなどで活動したドラマー・Scott GarrettやDOOMのギタリスト・藤田高志といった、後に彼のソロ活動を十数年に渡って支えることになる面子が全面的に協力したサウンドは強烈なまでに骨太。真矢とのリズム隊セッションインスト曲がまた格好いいし、一部の楽曲ではThe CultのBilly Duffy、Guns N' RosesのSlash(!)までもがギターソロを弾くといったトピックもあるけど、そういった豪華な演奏陣/ゲストに決して気後れしない楽曲も素晴らしく、同時にとことんまでシンプルで、だからこそ強い。後に再録されクオリティアップする楽曲もあるけど、今聴くと物足りない音質や荒々しさが際立つボーカルといったある種の未熟さも、あまりにも赤裸々なメッセージも、ここではファーストアルバムでしかレコーディングできない熱や勢いといったポジティブな印象が勝る。現在まで続く彼のソロの音楽性の原点であり、まるで彼のテーマソングなタイトル曲「PYROMANIA」を始め永遠のライブチューンの宝庫とも言える渾身の一作。

 

 

 突然のINORAN・JというLUNA SEAの弦楽器隊2名のソロ1作目紹介記事でした。バンド本隊はもちろんソロ活動も好きで追っている管理人にとって、1997年のメンバーソロ作品というのは、終幕(2000年)以降とは色々な意味でちょっと違った存在感があって、個人的な思い入れも手伝い特別な位置づけだったりするのです。メンバーの性格やキャラクターとも最も直結しているような気もします。

 というわけで、「MOTHER」「STYLE」の再レコーディング盤やそれらの再現デュアルツアーなど熱い話題が続いている今、いつか書いてみたかった両名の97年ソロ作品の紹介記事をまとめて書いてみました。

 

 ちなみにSUGIZOのソロ1作目も過去に紹介記事を書いているので、よろしければ合わせてご覧下さい。

 河村隆一のほうは、単体ではなく彼の「全アルバムのヒストリー記事」の中で扱っているので、よろしければそちらでご覧ください。めちゃ長い記事なだけに苦労して書いたので、お時間がありましたら他の作品紹介文もご覧いただけると嬉しいです。

 

 

 なんか忘れてないかって?いやー、こうなってくると真矢のソロアルバムだけ欠けているのが気になりますが…発売当時には聴いたと思うし、シングル曲の「落下する太陽」は何となく覚えているんだけど…でもアルバムの印象は全く無く、現物や録音した媒体なんかも手元に残っていないということは…そういうことなんでしょう(謎)。今になってまた聴いてみたい気持ちはあるけど、わざわざそれだけ探すのもなんだかなぁ…というわけで(?)、今後どこかフラっと入った中古ショップでたまたま思い出してたまたま見つけることができたら、そのときは手に取ってみようかなと思います(おい)。