MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

自分語りと櫻井敦司(BUCK-TICK)

 出典:BUCK-TICK オフィシャルサイト(https://buck-tick.com/

 先日、BUCK-TICKのボーカリスト櫻井敦司が急逝したというニュースが発表されました。同日のライブ中に体調不良を訴え3曲で降板し緊急搬送されたというニュースがあったとはいえ、個人的にはさすがにそれが生命を脅かすほどの重症とまでは思っていなかったこともあり、発表を知ったときは何がなんだか理解できず、しばらく事態が飲み込めずにいました。

 それから各ニュースサイトで報じられるニュースの見出しの活字を眺め、同業者や著名人が哀悼の意を表明し始めて、ああ、これは本当の出来事なんだ…と信じたくない気持ちを少しずつ解かすように実感が湧き始め、押し黙る方・取り乱す感情をそのまま細かく発信する方と様々な反応を目の当たりにしながら、自分も心の整理をつける一つの手段として、櫻井敦司さんやBUCK-TICKとの出会いを振り返って文章にしてみることにしました。

 

 メジャーデビュー以降不動のメンバー5人で36周年を迎えなおも走り続ける、言うまでもなく伝説的なキャリアを誇る偉大すぎるバンド。自分の場合、その出会いは「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」でした。

 当時CDを購入していたショップ(CDショップというよりは家電やオーディオを扱うお店のCDコーナーのような場所)のモニターに流れていたこの曲のMVを見て、体に電流が走ったような衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えています。真っ黒の画面の中に浮かび上がる白い顔。奇怪なリズム、ヘヴィな演奏、胸に圧を受けるようなメロディ。その全てがあまりにも鮮烈で、今までに聴いたことのないタイプの音楽だったことによる混乱だったり、なんだかちょっとアブない音楽にも聴こえたことによる好奇心が入り交じり、もの凄くドキドキさせられました。というかそもそもタイトルがヤバイ。

 

 

 その後に手に取ったベスト盤などで「悪の華」を聴いたとき、なんとなく聴き覚えがあったので、もしかしたら彼らと認識しないまま以前どこかで耳にしたのかも知れないけど(ヒット曲だし)、そんな彼らとの出会いを経てすっかり魅入られ、さてリアルタイムで新曲を迎え撃つぞ!というタイミングでリリースされたのが「キャンディ」で。

 ギャリギャリとやかましいノイジーなバックに響く超キャッチーなギターのイントロ、これ全部サビじゃんと言えるほどに全編に渡ってポップにハネていく歌メロのフック、そして何よりも「見えない物を~」というヘヴィな曲のあとにこんなに胸のすくような(実は結構マニアックだけど)ポップな曲が繰り出されるというその高低差に驚かされ、更に魅入られてしまいました。この曲もMVがめちゃくちゃ印象的で、GUNIW TOOLSの古川ともが監督した独特のアートセンスというか、絵画のような色彩感覚や異国感のある演出が当時の自分には凄く刺さり、映像込みで何度も繰り返し聴いていました。この頃に、自分は彼らをこの先もずっと追いかけていくんだろうなという感覚も備わりました。たぶん彼らの中で一番多く聴いてきた曲だろうなぁ。

 

 

 そんなわけで、管理人的にはこの2曲は、BUCK-TICKオールタイムでも特に思い入れの強い曲だったりします。彼らを好きな人は「一番好きなアルバムを選べ」と言われてもどれも良すぎてなかなか決めきれないみたいな人が多そうだし、管理人も当然そうなんだけど、結局はこれらが収録されたアルバム「Six/Nine」か「COSMOS」を最終的に選ぶような気がします。

 

 とはいえ、なにしろ音楽的にはやたら重たかったり、ポップに見えて色々とねじくれていたり、色々なジャンルを横断していたり、果敢な実験要素が散りばめられていたり…アルバムを通して聴いても最初はその全てを理解したり楽しんだりっていうのはちょっと難しかったようにも記憶しています。この次のリリースがこれまた問題作の「SEXY STREAM LINER」だったりするし。

 それでも、気に入った曲を選んで繰り返し聴きながら、ちょっとずつ理解を広げたり深めたりしてどんどん深みにはまっていく…という聴き方を続けられたのは、やっぱり櫻井さんの歌があってこそだったのかな、という気がします。

 BUCK-TICKの音楽はやっぱりギタリスト・今井寿が握る音楽面やコンセプト面でのイニシアチブが核になっていると思うんだけど、例えば彼がソロユニットとしてデビューしていたり、パッとしないボーカリストとの2人組とかだったりしたら、ひょっとしたら今ほどビッグにならず、知る人ぞ知る存在どまりだったかも知れない。あの5人のバンドという形で、その中でも櫻井さんという圧倒的な存在感を放つボーカリストがその歌声であらゆる楽曲を縦横無尽に表現したり、深みのある詞作で楽曲を更に磨き上げるなどすることで、今井さんのセンスを拡大して翻訳するかのような働きになり、BUCK-TICKの音楽として完成し、これほどまでの強度や浸透力を持ち続けたのではないかなと。ダウンタウンで例えると、飛び抜けすぎて逆に難解な松ちゃんのセンスに対して浜ちゃんがツッコむことで、より大衆に刺さるお笑いに変換されていったかのように(そうか?)。ついでに言うと櫻井さんはルックスも最強だ。いやこれも大事なことかも、割とマジで。

 

 なんて今ではそう思えるけど、自分が櫻井さんの歌声の唯一無二の魅力というか凄さというか、そういうのをちゃんと意識したのは2004年に行われた彼のソロ活動がきっかけだったかも。BUCK-TICK外の楽曲を歌うというのも新鮮だったし、この手のバンドのボーカリストのソロっていうと「自然体」とか「鎧を脱いで~」とかそういうイメージが強かったのに、アルバム「愛の惑星」は国内外のニューウェイブ/オルタナティブなアーティストから楽曲提供を受けたコラボ楽曲集、といった性格で、音響的にもこだわりと癖の強い様々な楽曲たちを見事に歌いこなしつつもしっかりと一本筋の通った世界を構築していて、なんかもう純粋に凄いな、上手いなと圧倒されました。自分のライブラリをちらっと調べてみたら、ソロ1stシングル「SACRIFICE」なんてBUCK-TICKのほとんどの曲よりも再生数が多かった(笑)。

 参加したミュージシャンも正直当時はよく知らない人も多かったけど、あとあと自分の音楽の好みが変わったり広がったりするにつれて「こんな人も参加してたんだ!」という後追い発見みたいなものもあったりして、彼と繋がりを持ったりリスペクトし合う面々から(勝手に)伝わる人柄やカリスマ性、美学や音楽的背景みたいなものへの理解や答え合わせのような聴き方も楽しんだりしました。この辺りをきっかけに、BUCK-TICK本隊に対してもそれまでより要素を分解したり背景を辿ったりという聴き方を意識するようになった気がします。そういう「楽しい学びを与えてくれる」とか「答え合わせのような聴き方ができる」みたいな存在って、自分の中では他にあんまりないというか、貴重だったりするんですよね。

 

 

 これの前、2001年に活動した日独英のスーパーバンド・SCHWEINでも(まぁ自分的にはこのアルバムは今ひとつなんですが)Raymond Wattsに一歩も引かないボーカルを披露し、PIGやインダストリアルロックというジャンルに更に惹き込まれるトリガーにもなったし、2015年に10年ぶりのソロプロジェクトとして立ち上がったプロジェクトバンド・THE MORTALでも、年月を経てさらに凄みを増したボーカルにて解放されるルーツの表現の深みに驚かされ、ポストパンクやゴシックロックをもっと深掘りしたいと思えるきっかけにもなったりと、櫻井さんの歌声や音楽志向に端緒をなして、驚きや新鮮な感動、未知への興味など、色々な手引きをしてもらったような感覚です。

 自分が好きになっていく洋楽ジャンルとBUCK-TICKの主なルーツにある音楽はかなり近いものがあって、そりゃあどっちも両輪で好きになるよなぁなんて思っていたけど、もしかしたら自分が意識していない聴き始めの頃から、知らず知らずのうちに教育されていたのかも知れないな、と今となっては思ったりもします。

 

 

 自分もこのブログでBUCK-TICKの作品の紹介記事などを書いていて、ごく最近も過去記事の文章を見直すために「狂った太陽」の「JUPITER」を聴き返しながら、そう言えばこの曲の歌詞は亡くなった母に捧げられたものだったんだよなぁとか、美しい曲だなぁとか思いを改めていた矢先の今回の報せでした。

 確かに年齢的にも何があってもおかしくない領域だったとはいえ、いくら何でも早すぎる。デビュー35周年から続く企画、各種リリースやツアー、武道館ライブなども予定されていたのに。じゃあいつ頃ならいいとかそういう話ではないし、そのいつまでも第一線バリバリな働きぶりが健康面であまり良くなかったのかもしれないけど…。でも、今じゃなかったよなぁというのは強く強く思います。ひょっとしたらBUCK-TICKは、メンバーが5人とも60歳を過ぎても65歳を過ぎても、まだまだ揃って現役でやっているような、そんな存在になっているんじゃないかという希望もなんとなく持っていたのに。

 そう、これだけ長くやっているにも関わらず、今年リリースされた23枚目のアルバム「異空 -IZORA-」はチャート2位を記録したりと、世間的な評価でもしっかりと "今" を走っている現役のバンドでした。個人的にも、例えば "好きのピークは昔だけど今も応援しているよ" とかそういう温度感ではなく、最新作を待ち焦がれ、その度に歓喜するなど、しっかりと追いかけながら "今" を楽しませてもらっている存在でした。そんな付き合いは、上述した通り「見えない物を~」からなので、もう27年にもなるのか…有名人の訃報に大も小もないけど、やっぱりそれだけ長く濃く自分の中にあっただけに、一際心にくるものがありました。逝去を知った日に「異空 -IZORA-」を聴いたときは、「太陽とイカロス」の途中で我慢できなくなって涙が溢れてしまいました。あの爽やかで広がりを感じさせる曲調が逆説的に胸に響き、歌詞のワードと変にオーバーラップしてしまって。実際はそんなわけないのに、レクイエムのような裏読みすらもしてしまって。

 

 

 そうしてようやく実感が伴ってから今井さんのメッセージを読んで、強い喪失感とともにちょっとの元気というか希望というか、最も身近なところにいる人がこう言っているんだから、いつまでも落ち込んではいられないな、という気持ちを貰いました。

 自分の音楽の嗜好を決定づけ、根幹を形成してくれた人。それだけでなく、もっと色んな大切なものを与えてくれた人。メディア露出の一部からでも伝わる誠実な人間性、物静かな振る舞い、誰にも負けない芯の強さ、可愛らしい一面、素敵な笑顔にも憧れてやみません。そして、そんな人が最期の瞬間まで全身全霊で全うしたバンドや音楽と同じ時代を過ごし、ここまでともに年齢を重ねてこれたこと、感謝しかありません。ありがとうございました。お疲れさまでした。