MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

hide 『KING OF PSYBORG ROCK STAR』

KING OF PSYBORG ROCK STAR

KING OF PSYBORG ROCK STAR

  • アーティスト:hide
  • ユニバーサル
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 X JAPANのギタリスト・hideによる編集盤(2004年)。

 

 七回忌を記念してリリースされた3作目の編集盤で、彼のソロワークの中から“PSYBORG ROCK”という独自のコンセプトを持たせていた楽曲を中心に収録。まぁ要はインダストリアルロック/メタル方面の楽曲/アレンジ曲を主に選出したベスト盤ということになるので、そっち系を愛好するリスナー(管理人含む)にとっては実に“話が早い”(謎)アルバムと言えます。彼がジャンル問わず幅広い音楽性を展開していたというのは大前提として、この手のジャンルの表現には特に力を入れていたのもまた事実で、それが連なることで一つの作品性が明確に浮かび上がっています。“PSYBORG ROCK”というのが単にインダストリアルロックを伝わりやすいように言い換えただけなのかも知れないけど、ただ海外的な音へ寄せて終わりというわけではなく、当時の最先端のテクノロジーを興味の赴くままに駆使した何重ものスタジオ作業を経て、実験や遊び心までもふんだんに注ぎ込むことで、機械的な響きの効果と人間の演奏の強みが融合したような、まさに“PSYBORG ROCK”という表現が相応しい独自性と面白みに溢れた内容になっています。とことんヘヴィ&メタリックな楽曲であっても彼らしいポップさやノリが通底していて決してマニアックにはなり過ぎず、今聴いても古くなっていない…とまでは言わないにしても十分な聴き応え。シングルB面曲からのセレクトが多く、X JAPAN「MISCAST」のセルフカバーやLUNA SEAのJ, INORANと結成したユニット曲「FROZEN BUG (MxAxSxS)」などコンピ盤のみ収録だった楽曲などもあり、その辺りまで細かく追い切れなかった人にとっても有り難い選曲だし、所々のライブ音源が良いアクセントになっていたり、一部の楽曲間を繋げて臨場感を保つ編集が施されていたりと、痒い所に手が届く優良な一枚ではないかと。

 

Lead Into Gold 『Chicks & Speed: Futurism』

 Ministryのベーシスト・Paul BarkerによるソロプロジェクトのEP(1990年)。

 

 1986年から2003年という長い期間Ministryに在籍し、ベーシスト/エンジニアとして右腕的な活躍を続けたPaul Barker。元々は、後にMinistryでドラムを叩くBill Rieflinらと共にポストパンクバンドで活動しており、Al Jourgensenとの出会いをきっかけにバンドを解散し、メンバーがそのままMinistryに合流するような形で1986年頃から加入という流れだったようです。で、彼は1989年前後にやたらと活発だったMinistryの多数の変名バンドにも全面的に参加しており、これもその一つ…かと思っていたら違って、あくまでもPaul Barkerが主体のソロプロジェクト。しかしAl JourgensenやBill Rieflinらも一部参加しているので似たようなものかも。本作は当時リリースされた2シングルを1CDにまとめたもので、内容的にはどことなくLaibachっぽさを感じるプロトタイプMinistry、みたいな雰囲気。どっしりとしたテンポと重さで強打されるリズムトラックにオーケストラ風のアプローチを重ねたインダストリアル/ニューウェイブといったところだけど、Laibachほどの風格は当然ないし、1曲が無駄に長い上にこれといった聴きどころや展開に乏しく、変名バンドにありがちなお遊び感覚も薄いので焦点がぼやけ気味。SOFT BALLETがそのまま歌えそうなエネルギッシュなエレクトロビートが爽快な「Idiot」だけが妙に浮いていて、かつ聴ける出来。まぁこれはMinistryのアウトテイクに近い楽曲のようなのである意味当然ではあるのだけど。一アーティストや作品としてどうこうというよりは、Ministryの変名バンドまで追いかけるようなリスナー向け、と言ったところでしょうか。

 

 

 Paul Barkerについては、Ministry脱退後も音楽活動は継続しており、2018年ごろからはLead Into Goldとしての活動も再開。ohGrやSkinny Puppyと北米ツアーを敢行したり20数年ぶりのアルバムをリリースしたりしているようです。またAl Jourgensenとも2018年頃から再度意気投合しているようで、Ministryの最終作と予告されている次回作には数十年ぶりに作曲やレコーディングでの参加を表明しているとか。やはりMinistryのファンはPaul BarkerあってこそのMinistryと記憶している人も多いだろうし、この辺の動きも非常に楽しみ。

 

 今回の更新に合わせ、Ministryの2作目『Twitch』、Paul Barkerが本格的に加入して初のアルバムとなった3作目『The Land Of Rape And Honey』の過去記事の文章を少々見直しています。『The Land Of~』については、先日X(旧Twitter)にてポストした内容を肉付けする形で加筆した部分もありますので、よろしければ合わせてご覧ください。

 

PIERROTのダイナミックな軌跡を今こそ振り返る

出典:PIRROT OFFICIAL SITE https://pierrot.jpn.com/

 

 メジャーデビュー日の同日となる去る9月10日に、待望の全26作品のサブスク解禁、そしてその1カ月後に開催されたDIR EN GREYとの2度目となる一大対バンイベント・「ANDROGYNOS -THE FINAL WAR-」、そこで発表された約10年ぶりとなるワンマンライブなど、今なにかとホットな話題を提供しているヴィジュアル系ロックバンド・PIERROT。

 管理人の大大大青春でもある彼らについて、ブログで取り上げるなら今しかない!ということで、彼らの概要と歴史、音源や楽曲などを自分なりに振り返る記事を書いてみました。少し長くなったけどお付き合いいただければ嬉しいです。では、どうぞ!

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Ministry 『With Sympathy』 『Twelve Inch Singles (1981–1984)』

With Sympathy

With Sympathy

  • アーティスト:Ministry
  • Bmg/Arista
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 US/イリノイ出身のAl Jourgensenを中心としたインダストリアルバンドの1stアルバム(1983年)。

 

 インダストリアルメタルというジャンルの偉大なるパイオニアとして名を馳せるMinistryの記念すべき一作目は、そのイメージで後追い鑑賞すると誰もがひっくり返るであろうほどに超ポップなシンセポップアルバム──というのは、この界隈ではあまりにも有名な話。何でも、当時一時的に所属していたレーベルからの不当な圧力によって、音楽性や制作スタッフ、歌詞やルックスに至るまで強制的に指示されて半ば無理やり作らされたのだとか。作曲自体はAl Jourgensenが一応全て行っているけど、キーボードを中心に管楽器や女性コーラスを重用し、強烈に漂うディスコティックなムードの中で甘いメロディを朗らかに歌うボーカルといったサウンドメイクは、Duran DuranVisage辺りにも比肩するレベルでキラッキラ。なるほど「イギリスのニューロマンティクスに対するアメリカからの回答」と評されたのも納得。ただ、売ることをとにかく目指したであろうだけに商業的な完成度には気合いの入りようが感じられ、実際に結構売れたらしい。それでもAl Jourgensenは本作を快く思わず、レーベルとの不和から係争/脱退劇に繋がったし、2012年に再販されるまで長年廃盤状態だったようです。管理人の場合、こういった音楽は好きだけど深掘りまでは出来ていない、程度の感覚なので、耳当たりの良さで普通に楽しめちゃったりします。哀愁感とわざとらしいクサさが好き。それと楽曲によっては分解したら後のMinistryに繋がりそうなマニアックさが感じられたりもするんですよね。気のせいかもしれないけど。そしてここ数年では「当時の悔しさが後の自分の路線を決定づけたから感謝している」的な発言をしていたり、30数年ぶり(!)にライブで披露するなど封印状態にあった本作へ肯定する意識が向けられており、Ministryとしての最終作には本作の収録曲をいくつか再録音するとも予告されています。『With Sympathy』で始まった歴史が『With Sympathy』で閉じるのだとしたら、なんだかじんわりと来ますね。

 

 

 

Twelve Inch Singles-..

Twelve Inch Singles (1981–1984)

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 こちらはアルバム未収録の初期シングル集(1987年)。インダストリアル/パンク系を扱う当時のシカゴの新興レーベル・Wax Trax! Recordsよりリリースされたもので、Ministryとしてのデビュー曲(ファンクの影響を素直に抽出した「Cold Life」)や、1stアルバム『With Sympathy』を挟んでWax Trax!へ出戻りし、Al Jourgensenのソロプロジェクト状態となりリリースされたシングル計4枚の中から8曲を収録。1986年にインダストリアル/ダブ界の巨匠・Adrian Sherwoodと共にEBMの金字塔と評されることになる傑作2ndアルバム『Twitch』を作り上げるまでの習作集+α、という見方もできそう。初期の大名曲「(Every Day Is) Halloween」などに見られる、リズムやアクセントはEBMに比肩する跳躍感と迫力を擁し、しかし上物や歌のニュアンスはシンセポップの柔らかさを保っている──という“EBMとエレポップの要素がちょうど半々”的な過渡期とも言える音像や、Front 242のRichard 23が参加したことでRevolting Cocksの結成へと繋がった「The Nature Of Love」といった、この時期ならではの“殻を打ち破る直前”的な作風を楽しむことができます。普通ならこういう編集盤まで手に取るのはコアなリスナーくらいだとは思うのだけど、Ministryの場合はある時期までの歩みそのものがインダストリアルロック/EBMの歴史に直結するものがあるので、そこを補強するという意味で興味深く聴ける一作。2014年には2枚組で再発されており、2004年にリリースされた本作の拡張版的な存在だった初期楽曲/未発表曲集『Early Trax』のラインナップ等が加えられた完全版となっています。

 

 

 そのアーティストの普段の路線とはかなり外れたような楽曲や作品は「別物だと思えば良作」的な文言でフォローしたり評価されたりっていうのが一種の定番だと思うんですが(もちろん本心だろうけど)、Ministryに関しては初期は本当にまるっきり別物なのでそれ以外に形容のしようがない…という(笑)。ただ、上にも書いた通りここ数年のAl Jourgensenはこの辺りの初期楽曲に関して、30数年ぶりにもなるライブでの披露や再録音の予告などの掘り返しを行っており、ファンの間でもよい再注目のタイミング…なのかも。管理人も久々に聴いてみたら、やっぱりこれはこれで悪くないな~と。Ministryの黒歴史という情報を込みにした楽しみ方や、抜きにした一つの音楽としての感触なんかを噛みしめたりして、Ministryというバンドが今度こそ本当に終局を迎えそうという状況に思いを馳せながら聴き返しており、今回の記事となりました。今後の彼らの動向により注目していこうと思います。

Waltari 『Monk-Punk』 『Torcha!』

Monk Punk

Monk-Punk

  • Stupido
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 フィンランド出身のクロスオーバー/アヴァンギャルドメタルバンドの1stアルバム(1991年)。

 

 様々なタイプのメタルやパンク、あるいはテクノからインダストリアルまでとにかく幅広い音楽性をミックスさせることで知られる彼ら。1986年に結成され現在まで活動を続ける大御所でもあり、ヨーロッパを中心に広く人気を獲得しており、ここ日本でもそれなりにファンのいるバンド…という認識。そんな彼らの記念すべき1作目。この時点では彼らの代名詞でもあるクロスオーバーな音楽性はまだ発展途上で、ラップやファンク色のあるハードロック/パンク、と簡潔に説明がつく感じ。ただ、ベース/キーボード演奏も兼任するボーカリスト・Kärtsy Hatakkaの茶目っ気のある歌声や、全体を貫く明るく楽しげな雰囲気、何が飛び出してくるのか読みにくいバラエティ感、思いも寄らない工夫に凝ったアプローチといった彼らの特色や個性は割とこの時点で一つの形を成しており、どこから再生しても“Waltariらしいな”と瞬間的に察知させられてしまう。後追いで聴いても、未熟な印象よりも感心が勝ってしまう、そんな内容だと思います。中でもThe Beatles「Help!」のグラインドコア風カバー(!)は驚愕必至というか、彼らの突飛なセンスが一足早く傑出した楽曲と言えそう。それとだいぶ余談ではあるんだけど、X JAPANのギタリスト・hideは彼らに強い影響を受けたらしく、なるほど歌声の声色や楽曲の端々から感じられるフレーズ/ギミックなんかは参考にしてそうな部分もチラホラ。しかしそれ以上に「音楽を楽しんでいる空気感」「音楽で楽しませようとする姿勢」みたいなものが共通しているところが素敵だなと。というわけで、hideが好きな人も是非ご一聴を。

 

 

 

Torcha

Torcha!

  • アーティスト:Waltari
  • Roadrunner
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 こちらは2ndアルバム(1992年)。 彼らの超人的なミクスチャーセンスが開花を始めたアルバム、という位置づけらしいです。一通り聴いてなるほど納得。基本的には前作の延長にあるファンクやラップを取り入れた明るめのハードロックを核としながらも、楽曲によってはスピードメタルやスラッシュメタルに接近──というレベルを超えて真正面から取り組んだり、ドゥームメタルすら想起させる遅く重々しいリフを炸裂させながらドッシリと進行したり、シンプルなパンクでかっ飛んだりとかなり奔放。もっと言うとMadonna「Vogue」のメタルカバー(!)という驚きのナンバーも完全に自分たちのものにするくらいに器用だし、その選曲が示す通りダンスポップ/ロックへの興味や造詣も感じられるという。その幅広いアプローチには大変驚かされるけど、同時代に挑戦的/先駆的な野心で時代を切り開いたUSオルタナティブ勢とは似てる部分がありつつもちょっと違ってて、彼らの場合は伝統的なロック/メタルへの敬意と再構築の両立を図った上で自分たちなりの新しい見せ方を追求しているような印象。なので様々なタイプの楽曲を並べることそれ自体が一つの目的と化してる節もあるけど、決してそこに飲まれたりせず、かと言って散漫になったりもしていないというのもなかなかに凄い話。しかも2作目でこれっていう。やっぱり楽曲がちゃんとよく出来ているし、ボーカリスト・Kärtsy Hatakkaの飄々とした歌声で自然とまとまっちゃうのも強い。終曲まで聴き通せば大満足お腹いっぱいになれるけど、彼らの本領が発揮されるのはまだまだこの先なのでいかに末恐ろしいバンドだったかというのが分かります。

 

 

 管理人が彼らを知り興味を持ったのは、管理人の心の師であるかつてのCDレビューサイトの管理人・TCRさんが世界一好きなバンドと公言されており、かつ当時の他のCDレビューサイトでもWaltariを扱っているところでは軒並み評価が高かったからです。癖の強さに馴染むのに時間がかかったり、音源の入手が難易度高めで後回しにしたりしていたけど、腰を落ち着けて聴くようになったら、聴けば聴くほどに彼らの良さや凄みに圧倒され、あっという間に深みにハマっていったのでした。インダストリアルメタルとの親和性もあるバンドなので、その辺りのアルバムもいずれご紹介できたらと思います。