MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

自分語りとFANTASTIC◇CIRCUS "TENSEISM BEST SINGLES 【2001-2004】"

【Amazon.co.jp限定】TENSEISM BEST SINGLES [2001-2004] (通常盤) (メガジャケ付 ※別絵柄)

 

 90年代から00年代前半にかけて活動していた5人組ヴィジュアル系ロックバンド・FANATIC◇CRISISの結成30周年に合わせた "転生" の復活劇から約1年。音楽活動を続けていたメンバー3名による【FANTASTIC◇CIRCUS】としての本格的な活動が再び実現し、後期のシングル再録ベスト盤のリリースやライブイベントなどが実施されています。

 前期ベスト盤の感想ついでに、普段のブログの番外編みたいな感じで「とにかく思い入れが強いバンドで昔はこんなにも聴いていました」と鼻息を荒くしながらFANATIC◇CRISIS愛を炸裂させた身としては、今回の再録ベスト盤に触れた感想もまたつらつらと自己満足的に書き記しておこうと思います。よろしければお付き合い下さい。

 

 今回のアルバムは「THE BEST of FANATIC◇CRISIS Single Collection 02」(2005年)がベースにあり、文字通り2001~2004年のバンド後期とも言える時期のシングル曲(+1曲)を再録。リズム隊のサポートには前作同様に、同時代に近しいフィールドで活躍したバンドより元SIAM SHADEのNATCHINと元La'cryma ChristiのLEVINが参加。ちなみにこの3バンドは、昔「LIFE」というタイトルのシングルを偶然にも示し合わせたかのように同時期(2000年末~2001年4月くらい)にリリースしたという逸話があります。だから何だって話ですが。

 今作収録曲は、ほとんどの楽曲でバラエティ番組エンディングテーマの連発という謎のタイアップがついていたものの、世間的にはヴィジュアル系ブームがひと段落した頃というのもあり、「火の鳥」ほど知名度の高めの楽曲はないと言えるかも。

 

 とはいえ、彼らは彼らでその後もずっと安定した活動を継続しており、というか何ならインディーズ再出発~自主レーベル/メジャー復帰と経た後の5thアルバム「POP」(2001年)でバンドの最高傑作に到達して以降は、そこで定まってきたFtCらしさというものから大きく外れることなく、自分たちのスタイルをゆっくり維持/成熟させながら活動を続けていった、というイメージ。なので前ベスト盤収録曲と比べると、ヴィジュアル系ブーム渦中に奔走したり、メジャーデビュー以降の音楽性の変革による紆余曲折の跡みたいなものは薄くなった(ような気がする)結果、より自然体かつ地に足のついた音楽を展開しているように思います。前期のシングル曲しか馴染みがないみたいな人にも、今作の方が実は刺さるなんてパターンがあったって全然おかしくない。

 そうは言っても別にそれが単に「落ち着いた」ということではなく、メジャーデビュー時に20歳という若さだったボーカリスト・石月努を筆頭にバンド全体の若さゆえの勢いみたいなものも失っておらず、しかも矢継ぎ早なリリースペースを落とさず最後まで活動を続けていたためか、そういったバンドのカラーが後期の楽曲においてもギュッと濃縮されているし、そこが彼らの強みや独自性に繋がっていたのかなと。そんなスタイルを簡潔に言い表す単語として "自由なわんぱくロック" なんて適当に思い浮かべてみたけど、我ながら結構言い得ているかも。FtC流スカ&ブラスロックで弾け飛ぶ「JET hyp!」、ビッグバンド風エロ歌謡「LOVE MONSTER」、オケヒット連発の派手々々アニソンライクな「鴉 <KARASU>」なんかは改めて聴いてもアッパーで賑やかで楽しい。

 一方で、 "転生" というテーマを掲げたという前ベストに対し、今作では(タイトルは同じながらも) "進化" の意味合いが強いとのことで、経験を積んだ歌の表現力の高まりとの親和性に自信を見せたり、ギターの音楽理論的なミクロの部分での修正をするなど、リリース20年を経た "今" の反映がより活きる楽曲が多いなという印象も。本作のリード曲を担う「ダウンコード」では、バックに生オーケストラを採用しより存在感を強めることでドラマチックなストーリー性や緊張感が増しているし、「ゆらぎ」のような良メロディをシンプルにフォーカスしたいい感じに肩の力の抜けた楽曲や、ジャズピアノをフィーチャーした「BLUE ROSE」などは、一際味わい深く染み渡ります。

 

 とは言え、今回も概ね前作同様にやはり大きなリアレンジなどはせず、今だと古く響くような部分のバランスを少々いじったりしている部分はあれど、基本は完コピレベルで原曲に忠実。全体として、時代に左右されない楽曲の良さを改めて少しでも多くの人へ届けるための細やかなチューニングに留めたという感じで、密かな進化を忍ばせながらも再現に努めるという難しい仕事をきっちりこなしてくれた、懐かしくも新しい良作に仕上がっています。当時に思い入れのあるリスナーにとっては非常に有り難いし、自分たちが作った音楽への自負も感じられて頼もしい。

 当時、ヴィジュアル系ブームの終焉と洋楽ロック(というかインダストリアルロック)への本格的な傾倒の重なりで自分にとってはこの手の音楽からちょっと離れた時期だったけど、彼らについては最後まで追い続け楽しませてもらった記憶が蘇って、聴いているとたまに泣けてきちゃったり。まぁライブに行かない身だと活動の安定ぶりが刺激不足に感じたようなときもあるのだけど、今となっては全てが美しい思い出です。

 ファンや往年のヴィジュアル系リスナーは言うまでもなく前ベスト盤同様に楽しめるだろうし、そこまで詳しくないような人も、これをきっかけにバンド前期の「ONE -You are the one-」「火の鳥」などの代表曲に勝るとも劣らない良曲を探しに聴いてみる、というのも良いかと。サブスクでも絶賛配信中。今作の+1枠であり、ラストシングルのB面曲という地味ポジションながらバンド後期を代表する楽曲と化した「追憶をこえるスピードで」もお勧めですよん。

 

 

 1年前の復活時は以降の予定を未定としていたものの、ツアーが好評だったことや自分たちが楽しめたこと、近年のミュージシャンの相次いだ訃報から年齢/健康面を顧みてやれるうちにやろうと意思統一し今回の再開に至ったとのこと。そして現時点での今後については「細く長く続けていきたい」と前向きに語られていて嬉しい限り。さすがに旧バンドの再録に関してはもうネタが無さげ(シングル曲以外の再録は店舗別特典などで小出しにされたし)ではあるけど、新曲を書いているとも話されているので、そう遠くない未来にひょっとしたら…と期するものを胸に秘めつつ、今はこれらの再録ベスト盤を楽しませてもらおうと思います。LUV FtC。

 

 

 

 前ベスト盤についての記事はこちら。よろしければ合わせてご覧ください。