MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

自分語りとFANTASTIC◇CIRCUS「TENSEISM BEST SINGLES 【1997-2000】」

TENSEISM BEST SINGLES [1997-2000] (通常盤)

 

 90年代~2000年代前半に人気を博した5人組ヴィジュアル系ロックバンド・FANATIC◇CRISIS。世間的には "ヴィジュアル系四天王" とかいう謎のくくりで、この手のジャンルに多少なりとも覚えのある方なればちょっとは知られた存在かと思います。管理人的には、思えば人生で初めて買ったアルバムが彼らの「MASK」だったような気もするし(うろ覚え)、インディーズという概念を知ったのも彼らを通してだったし(たぶん)、カラオケで彼らの楽曲をランダムで入れられてもどの楽曲であっても歌詞を見ずに歌いきる自信があるし(なんだそりゃ)、まぁとにかく共に過ごした時間と思い入れという面ではものすっごく特別なバンドだったりします。

 そんな彼らが、今もそれぞれで音楽活動を続けている3名によってバンド結成30周年に合わせ "転生" 。かつてのバンド名ではなく【FANTASTIC◇CIRCUS】として復活し、実に17年ぶりとなるワンマンライブやその後に開催されたツアーを経て、つい先日の2023年3月にリテイクベストアルバムがリリース。本格復活の助走となった2019年の一夜限りのディナーショー開催から遠巻きかつ冷静に見守ってはいたのだけど、バンドスタイルでのリブート&レコーディングとなるとやっぱり滾らずにはいられないというわけで、このアルバムに触れた所感を記録しておこうと思います。よろしければお付き合い下さい。

 

 まずユニット名のFANTASTIC◇CIRCUSっていうのがイイですね。パッと見だと元のバンド名と区別がつきにくいくらいに字面が似ていて確実に彼らだと分かるし、でも集結したのがオリジナルメンバー全員ではなく3人なので別物であるという意思表明や過去へのリスペクトでもあって。意味も「狂信的」「危機」というよく分からんものから、新たに「素晴らしい」「興業」という今のスタンスをストレートに表現するものに結果として変わっているのが実にクリティカル。かつて「HEY!3」に出演したとき松ちゃんに「プロレスの技名みたいなバンド名」と言われ石月努が爆笑していたのも今は昔。

 そして欠けていたリズム隊には、元SIAM SHADEのNATCHIN、元La'cryma ChristiのLEVINがジョイント。テクニックに長けたバンド出身なだけにサポートの手腕は折り紙付きだし、それ以上にテリトリーは違えど同時代を駆け抜けた戦友が支える布陣というのは往年のリスナーには特にグッとくるものがありましょう。ちなみに不参加だった2名の元メンバーとは現在も交流があるようで、復活の際にも声をかけ5人で会ったというからそこは一安心(表舞台から退いているのが不参加の一番の理由だとか)。

 

 さて、そんな5名により令和の時代に産み落とされた "TENSEISM BEST SINGLES【1997-2000】" 。曲目自体は、FtCがかつてリリースした「THE BEST of FANATIC◇CRISIS Single Collection 01」をトレースしており、文字通りメジャーデビュー後の1997年~2000年までのシングル曲を順番に収録。彼らの勢いやメディア露出がピークだった頃であり、最も知られているであろう代表曲も内包したラインナップ。彼らはシングルA面集やB面集以外にベスト盤の類を出していないので、復活に合わせてまるっと1枚をセルフカバーするならば簡潔で最良の選択かと。原盤と聴き比べるのも面白そうですね。本作に先駆けて新MVが公開された代表曲「火の鳥」が象徴する "生命" "輪廻" がここに来て新たな意味を持った、というのも出来すぎた面白い話。

 再生してみると、あまりの変わってなさに逆に驚きつつも「これだよこれ!」とガッツポーズをキメたくなる嬉しさが込み上げます。当時やりたくてもできなかったことを~とか、今の新しい解釈で~とかそういう大きな改変は基本加えることなく、各バンドパートだけでなく上モノの音色やテンポ感などもかなりしっかりめに再現されているような印象。かつてのリスナーの思い出に寄り添いながらも、よーく細部まで聴いたら更新された箇所や小さいこだわりを発見できたりもする程よい刷新具合にリピート欲が湧きます。

 ギター隊の2人はFtC解散後も割とずっと一緒に活動しているので阿吽の呼吸があるのは分かるけど、リズム隊のサポートも基本は再現に徹してくれているのが有り難いですね。時折ウネウネと動きまくるベースラインもほぼ完コピ状態だったのは個人的にポイント高いです。あえて言うなら「火の鳥」「ジェラシー」のデジタル色をやや弱めたりとか「beauties -beauty eyes-」の大仰なコーラスワークをマイルドにしたりとか若干古臭く響く部分を修正していたり、「心に花を 心に棘を」ではバンド感/ロック色の強い原曲を後押しするようにギターの重厚さを瞬間的に強調したりといった部分なんかは、分かりやすくも違和感なくスッと耳に入ってくる素敵なリアレンジでした。

 そしてなんと言っても石月努の変わらない歌声。過去のクセの強さや荒っぽさが丸くなり、キャリアや年齢を重ねたがゆえのふくよかさを備えつつも、FtCをFtCたらしめる最重要のマテリアルとして楽曲に再び命を吹き込んでいます。この唯一無二の低音ボーカルに一聴惚れしたんだよなぁ。メジャーデビュー当時まだ20歳だったことを考えると、今でもこれほどまでにFtCを "着こなせる" 彼の佇まいは奇跡的とすら思えるほど。ボーカルに関しては結構あちこちで歌い回しをほんのちょっと変えている部分も割と散見され、小さな萌えポイントとして楽しんでおります。

 

 結成当時の彼らが名古屋系のインディーズ・ヴィジュアルとして隠れ良バンドだったというのは百も承知だけど一旦置いておくとして。トータルで鑑みた彼らの最大の魅力であるカラフルなポップ/ロックがたっぷりと楽しめる、改めての自己紹介として最適な一枚であります。現役当時から縦横の影響やら音楽性の先鋭化などとは無縁と言わんばかりにただひたすらに独自の路線をひた走っただけに、ノスタルジーだけではないバンドの色、楽曲の良さが今もくっきりと浮かび上がるなと。ファンならずとも、往年の界隈で青春を過ごしたような(元)ヴィジュアル系リスナーならば特に一聴の価値はありましょう。サブスクでも配信されており気軽に聴くことができます。

 

 

 "続け" 。リライトされた「LIFE」のラストフレーズには何かしらの意味が込められているのだろうし、聴く人それぞれに思うところも期するものもあるでしょうけども──まぁあまり言葉にするのも野暮ってなもので。ただ目の前にある音源に浸りながら今を過ごそうと思います。ありがとう、FtC。