MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Ray "Happy days"

 アニソンシンガーの編集盤(2017年)。

 

 初のベスト盤にしてラストアルバム。デビュー5周年を目前にして "歌手活動卒業" を表明し、本作と翌月のファイナルライブで約5年半に渡る活動に幕を下ろしました。振り返ると辛さも悩みもあったけど幸せな時間だったという総括を込めてこのタイトルにしたとか。泣けますね。内容はアルバム初収録含む全シングル曲(全てタイアップつき)+それ以外の代表的なタイアップ曲+新曲2曲で、無難っちゃ無難だけど彼女の華々しい活動の記録として相応しい選出で、これ1枚でも十分に彼女の雰囲気や一通りの代表曲を体験できます。新曲はいずれもI've制作陣による集大成的な楽曲で涙なくして聴けません。しかし初回特典のDisc-2もできれば合わせて聴きたい。Disc-1に入りきらなかったタイアップ曲(Ray名義のCD初収録曲含む)や人気曲で構成され、特に後者はアルバムを象徴する曲やシリアスバラード、電波曲、トランス、珍しくロッキンな曲から唯一彼女が単独作詞した楽曲など、タイアップ曲の羅列だけでは味わえないアーティスト・Rayとしてのレンジの拡げ方や歩みをたっぷり詰め合わせた、Disc-1に勝るとも劣らない内容になっています。まぁ個人的にはなんで「向日葵」が入ってないんだよォォォ!!!!と叫びたくなるんですがそれはともかくとして(早口)、アイドルポップ/ガールポップがとことんまで似合う歌声や佇まいと、それをI'veが全面的にパックアップした鳴り物入りのデビューはやっぱり衝撃的で、だけどそこに留まらずに挑戦を続けながらも芯の部分はいつまでも変わらない彼女の存在はとても魅力的だったし、そんな短いながらも濃密に駆け抜けた期間をまとめ形にした作品として、アニソンやI'veのリスナーには大のお勧めです。

 

Becko "Inner Self"

 イタリア出身のMarco "Becko" Calancaによるトラップメタル/エレクトロニックロックプロジェクトの1stアルバム(2020年)。

 

 ポストハードコアバンド・Hopes Die Lastのベース/キーボード/ボーカルとして約11年間活動し、2015年に脱退したMarco "Becko" Calancaが、その後に立ち上げた自身の名を冠したソロプロジェクト。幾つかのレーベルを渡り歩いた後、2020年初頭に我らがKlayton率いるFiXT Music入りを果たし、その流れでたまたま彼を知りました。で、これがまたえらく格好いい!個人的には詳しくはないのだけど、トラップメタルっていうジャンルなのかな。無表情な重低音が特徴的なトラップビートの上にメタリックなギターや電子音を加えたサウンド。彼の場合、そこにポストハードコアのエモーションや(FiXT的な)インダストリアルロック/EDMの影響なども加え、エッジと華やかさを兼ねた独自性を獲得。分かりやすいところではBring Me The HorizonやLinkin Parkをカバーしていたりもして、実に絵になる仕上がり。もう1つ特徴的な点として、彼は日本が好きなのか「ベコー」と日本語での表記を割と強調していたり、日本人ラッパーとのコラボも行っています。一方で日本のアニメも好きなのか、ファッション・ジャケット・MV等でアニメを頻繁に使用しているし、更にはシリアスでハードな楽曲の中に時折女性のアニメ声を掛け声のようにサンプリングしていたり(!)。そんなあれこれが全部ブチ込まれた、ある意味カオスな世界観。だけどそれらをきっちりまとめ上げてスタイリッシュに聴かせるのは、彼のキャリアやセンスが成せる業なのかなと。個人的にも親近感が湧くし色々と「どストライク」でした。管理人が2020年に聴いたアルバムの中で最も印象に残ったのものの1つです。

 

葉月 "葬艶-FUNERAL-"

 lynch.のボーカリストによるソロアルバム(2020年)。

 

 もともとはバンド本隊のライブの中の "ピアノ1本で歌う" という1コーナーから派生し、やがて彼の単独公演として確立していった「奏艶」と題された活動があり、その集大成としてリリースされた作品。なのでファンにとっても「ついにソロデビュー!」というよりは、ぬるっと始まっていて気がついたら浸透したもの、みたいな感じ(かな?)。内容も過去の「奏艶」に基づいており、公演で披露したlynch.のセルフカバー・他アーティストのカバー・オリジナル曲という3要素での構成で、ピアノ/ストリングスを主体としたクラシカルな編成で統一。カバーの選曲は、自らのルーツである黒夢LUNA SEABUCK-TICK、昵懇のPay money To my Pain、実は楽曲制作にも影響を受けたというCocco柴咲コウといった、彼の嗜好や背景をストレートに反映した、同世代あたりには特に親しみやすいセレクト。荘厳さや流麗さだけでなく、重厚さや迫力が浮き立つような曲や、尺八や胡弓などの和楽器を取り入れた曲などを、彼の "艶" めいたボーカルによって見事に表現しています。「至上のゆりかご」の超ローボイスや「水鏡」の節回しも見所だし、セルフカバーの「PHOENIX」やPTPの「Another day comes」におけるシャウトを伴う歌唱は、原曲のラウドなサウンドとは方向を異にした音を背負いながらも、そこに引けを取らない激しさと熱量が込められ、ただのバラードアレンジなどに終わらない、まさに彼/本作ならではの仕上がり。活動歴20周年を迎え深みを増していく「葉月」の狙う世界観が見事に体をなし、魅入られた人の心をブチ抜く逸品。至高の闇属性オーケストラ!

 

 

 以上、当ブログの主なテーマとはほぼ関係ない完全趣味枠な記事でした。管理人が2020年に最も再生した(ことになるかもしれない)アルバムということでひとつ!lynch.に関する記事は他にも書いていますのでよろしければ合わせてどうぞ(めちゃ長いですが)。

 

I've × Key Collaboration Album

 アニメ/ゲーム系の楽曲を中心に制作するクリエイターチーム・I'veとゲームブランド・Keyの自主レーベル・Key Sounds Labelのコラボレーションアルバム(2016年)。

 

 美少女ゲーム業界の最大手・ビジュアルアーツを代表する2大サウンドレーベルの楽曲を、それぞれに所属またはゆかりのある歌手が互いにカバーし合うというコラボレーション企画によるアルバム。コミックマーケット91にて先行発売され、翌年6月に一般発売されました。界隈のファンにとってはどちらもお馴染みで信頼も厚く、ここまで多くの名曲を生み出しシーンを牽引してきただけに、それらが交わるという夢のある企画で期待十分。でもうーん、蓋を開けてみると評判はそんなによろしくない。まず選曲にパンチがないし、お互い曲を交換して再編曲している割には、軽~い感じの享楽的なEDMを軸にしたような無難なダンスアレンジが大半で刺激が薄く、リスペクトと言えばそれまでだけど、原曲の良さを生かしたいのか新しい魅力を付加したいのかどうにも中途半端で縮こまってる感じ。ボーカルは割と楽曲に合った人選をしていると思うけど、Larval Stage Planningの曲をわざわざ3人で歌って再現したりと、力を入れる部分がズレてる感も。総じて、お祭り企画なんだからもっと別物として捉え、新鮮な驚きを提供してほしかったかなと。Key側には個人的にあまり詳しくないのだけど、感動的なバラードの原曲を爽快な四つ打ちに改造した「Saya's Song」、デジタルR&Bに再編した「青空」はやっぱりその思いきりが良かったし、それぞれIKUとLily on the FIeLDが原曲を歌う実力派・Liaに負けない歌唱でキッチリと仕上げてくれてかなりハマってます。しかしそもそもこの企画自体、ぶっちゃけちょっと旬を過ぎているというか。作るのがあと5年早ければ、KOTOKOやLiSAみたいなビッグネームも参加してくれて、もっと盛り上がっていたのかも…?

 

(原曲)

Spineshank "Anger Denial Acceptance"

Anger Denial Acceptance

Anger Denial Acceptance

Amazon

 アメリカ/カリフォルニア出身のオルタナティブメタル/インダストリアルメタルバンドの4thアルバム(2012年)。

 

 2004年にボーカリストJonny Santosが脱退し、翌年新たなボーカリストを迎えるも活動は軌道に乗らず、休止状態が長らく続いていました。が、2008年に後継のボーカリストが脱退し、Silent Civilianというメタルコアバンドを結成し活動していたJonny Santosが再合流。まさかの約9年ぶりとなる新作のリリースに至りました。かつての2作目3作目がそれぞれ別方向でとても素晴らしい出来だっただけに楽しみだったし、管理人はメタルコアには全く詳しくないけど、Silent Civilianのほうも軽くチェックしていて割と良かっただけに、この新作はもしかしたら最強のインダストリアルメタルコアなアルバムが出来上がるのでは…!?なんて期待しちゃったけど、全然そんなことなかった。率直に言うと別物で、メタルコアやハードコアの鋭さを得たニューメタル/オルタナティブメタル。より迫力を増したシャウトを中心とし、凶悪なリフ、的確かつ激しく畳みかけていくリズム隊などが所狭しと暴れまくり。一方でインダストリアル要素は更に減退…というのは今さらどうでもよくて、かつての作品に感じられたキャッチーさやメロディアスさという大きな持ち味が(あえて?)無くなっているのがちと残念。メロディ(クリーン)をフィーチャーするパートも豊富ではあるけど、テンポダウンからの再加速みたいな流れも多く、その詰め込みは勢いを削いでいると感じることも。これが彼らの新しい形なんだろうし、格好良くもあるけど、以前のSpineshankが大好きなせいでどうしても比べて見てしまい、個人的な好みからやや外れてしまうという感じ。ちなみに11~13曲目は連作になっており、アグレッションとメロウがシームレスに展開していく様が痺れます。ちょっとSlipknot「Vermillion」を思い出した。という具合にお気に入りの楽曲もあったのだけど、2016年ごろにSpineshankはやり尽くしたという旨の発言もあったようで、今度こそ本当に解散状態にあるようです。うーん、残念。

 

 

 というわけで、そんなお気に入りでもある "以前のSpineshank" の紹介記事もよろしければ合わせてご覧ください。だいぶ古いのでちょっとだけ文章を見直しています。久しぶりに聴いたけどやっぱり良い…!