MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

MUCC 『カルマ』

 4人組ヴィジュアル系ロックバンドの10thアルバム(2010年)。

 

 デジタルアレンジやダンスビートをこれまでになく大きく取り込んだ意欲作であり、メンバーも認める一種の問題作。メタルに振り切った前作『球体』との落差には驚かされるけど、そもそも前作の制作時点で次にやりたい方向性がある程度明確に存在しつつも、メタルバンドとアメリカツアーを敢行していた当時の活動を反映させた作品作りを選択。そして今作は、その時に一旦見送ったアイデアや、バンドの頭脳でもあるギタリスト・ミヤが当時活発に行っていたというDJ活動からの新たなインスパイアなどを結実させたことで、無理に極端から極端へ路線変更したとかそういうことではなく、必然とも言える流れの中で完成したようです。まぁここに至るチャレンジはそれこそ前々作『志恩』の時点でも感じ取れたし、他ジャンルとの交流も活発で常に壁を壊しながら音楽性を広げてきた彼ららしい作品とも言えます。本作を最も象徴する「アイアムコンピュータ」とそのまま繋がるインスト「業」を境に、後半は全英詞ジャズ「堕落」やブラスポップ「サーカス」、本作では逆に異色なHRナンバー「ライオン」など、ベーシックなバンドスタイルでの自由度の高い楽曲を並べているけど、前半のインパクトや全体的により "踊れる" サウンドを標榜した一体感は、やはり初期からのファンやヘヴィな音楽愛好家を中心に賛否両論を巻き起こした模様。しかし個人的には彼らの音楽的な意欲や姿勢、覚悟までもが伝わり、演奏者/表現者としての成長も感じられる好感触な一枚だったりします。

 

 

 今回の記事に合わせ、「大昔に書いたけどいつだったか何かの手違いで非公開になったまま長らく放置していたMUCCの過去記事の文章見直し&再公開作戦」(長い)の続きとして、彼らの4thアルバムと5thアルバムの紹介記事を改めて公開しましたので、よろしければ合わせてご覧ください。

 

Flesh Field 『Tyranny Of The Majority』

 アメリカ/オハイオ出身のダークエレクトロ/エレクトロインダストリアルユニットの4thアルバム(2011年)。

 

 前作以降も制作は続いていたものの、メンバー間での何かしらの事情があって新作の正式なリリースには至らず、2011年に解散を発表。同時に、制作中だった音源がパッケージングされ、未完の4thアルバムという形で無料公開されました。それがこの本作になるんですが、ことの推移から半分はデモや素材のようなものかなと思っていたら、しっかりと作り込まれた音源で驚愕。しかも歌ナシ状態の完成音源かと思いきやIan Rossと思しきボーカルは所々だけどちゃんと入っているので、明らかに「あとは女性ボーカルを入れるだけ」という状態で、ここまで作り上げられたものを無料で公開するというのは太っ腹というか、逆にいいのか?と尻込みしちゃったりも。音楽的には完成度の高かった前作をそのまま踏襲する形になっているようで、同路線でもう一作くらい続いても望むところだったこちら側としても納得の内容。機械的な質感の中に光るドラマチックさ、スピード感で増していくスリリングさは特筆すべきものがあり、オケだけでも十分に聴けちゃいます。でも、一部ではブレイクビーツを取り入れたりガバのような高速ビートを刻んだりと新たなアプローチを試みた形跡もあるし、歌のない時間帯の長さからして女性ボーカルの比重を増やすつもりだったであろうことを考えると、やはり完成形を聴いてみたかった。

 

 

 今回の記事に合わせ、過去に書いた彼らの1~3作目の紹介記事の文章を少々見直しているので、よろしければ合わせてご覧ください。

 

 

 当時コンポーザー・Ian Rossは、脱退した女性ボーカリストに代わる人物を探すのではなく、あくまでも「解散」という形をとり、異なる新しいプロジェクトへ意欲を見せていたようだけど、結局大きい動きはないままでした。この手のジャンルでもゴシック色の強いアーティストにはあまりハマれなかった管理人にとって、彼らは珍しくかなり好きになった存在だったので残念な思いだったのだけど、今年になって突然の復活を発表。同時にこの最終作からは約12年ぶり、正式な流通作品としては3rdアルバム以来約19年ぶりとなる新作(しかも同レコード会社・Metropolis Recordsから)も発表、先日(11月3日)にリリースされました。期待を裏切らない内容に満足しております。

 

自分語りと櫻井敦司(BUCK-TICK)

 出典:BUCK-TICK オフィシャルサイト(https://buck-tick.com/

 先日、BUCK-TICKのボーカリスト櫻井敦司が急逝したというニュースが発表されました。同日のライブ中に体調不良を訴え3曲で降板し緊急搬送されたというニュースがあったとはいえ、個人的にはさすがにそれが生命を脅かすほどの重症とまでは思っていなかったこともあり、発表を知ったときは何がなんだか理解できず、しばらく事態が飲み込めずにいました。

 それから各ニュースサイトで報じられるニュースの見出しの活字を眺め、同業者や著名人が哀悼の意を表明し始めて、ああ、これは本当の出来事なんだ…と信じたくない気持ちを少しずつ解かすように実感が湧き始め、押し黙る方・取り乱す感情をそのまま細かく発信する方と様々な反応を目の当たりにしながら、自分も心の整理をつける一つの手段として、櫻井敦司さんやBUCK-TICKとの出会いを振り返って文章にしてみることにしました。

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INORAN 『想』 / J 『PYROMANIA』

 LUNA SEAのギタリストによる1stアルバム(1997年)。

 

 れっきとしたソロ名義の一作目ながらも、海外の女性シンガーや男性ラッパーをゲストに迎え本格的なクラブ向けのサウンドを実践した作品。DJ KRUSHによるプロデュースや彼の静かながらも確かなギタープレイを下地にしながら、トリップホップダウンテンポ、ヒップホップにR&Bにジャジーといったムードある音楽性を柱にした、なんだか "ソロ作品" というよりも "サントラ盤" "オムニバス盤" という表現が近しいような、INORAN自身すらもまるで裏方に徹したような構造。本人が歌うのはシングル/タイトル曲のこれまた異色のレゲエ「想」のみだし、それも大人の事情でそうなったらしく本人的には歌いたくなかったそう。技量的には確かに加工では隠せない拙さはあるものの、曲調やメッセージに合っていると思うし、これが真ん中にどっかと鎮座していることでソロ作品としての意義を保ち、かつ全体を引き締めている気がするのだけどさてどうだろう。そもそもが97年のLUNA SEA活動休止時において彼はソロ活動推進派ではなかったらしく、その辺りを起因とする思考や感情が、当時なりの影響や野心へ自然と繋がったのだとしたら、こういった実験的意欲作が生み出されるのも当然なのかも。単なるLUNA SEAキッズだったリスナー(というか自分だ)にとっては、97年メンバーソロの中で最も驚きと戸惑いを覚えそうだけど、聴けば聴くほど当時の彼への(個人的かつ勝手な)イメージ──「寡黙」「目立たないけど重要な役割」だとか、でも「実はメンバーで一番熱い」だとか、そういった印象にすごく符合するし、年月を経た上で改めて向き合うとその味わい深さをより実感できる、何とも不思議な世界観/空気感を封じ込めた一作。

 

想

  • アーティスト:INORAN
  • Lastrada
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 ちなみに2011年にはジャケット一新・タイトル曲のボーカル再録・ボーナストラック1曲追加が行われたリイシュー盤がリリースされており、2022年にはサブスクも解禁。どちらにも違う良さがあるので、機会があれば原盤と聴き比べてみるのも一興。

 

 

 

PYROMANIA

PYROMANIA

  • アーティスト:J
  • Universal Victor
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 LUNA SEAのベーシストによる1stアルバム(1997年)。

 

 当時のメンバーソロの中でも最も分かりやすいというか、そうだよねうんうん!と諸手を上げて受け止めたくなる、そんな作品。彼の最大のルーツであろうハードロック/パンクロック/オルタナティブロックを、どこまでもストレートに自らの手で表現。彼らしい野性味や奔放な性格も手伝って、根っからのロック小僧に立ち返ったような実直な熱量を包み隠さず剥き出しで放出している様が圧巻。ベースやボーカルだけでなくギターも自身で弾き、その上でThe Cultなどで活動したドラマー・Scott GarrettやDOOMのギタリスト・藤田高志といった、後に彼のソロ活動を十数年に渡って支えることになる面子が全面的に協力したサウンドは強烈なまでに骨太。真矢とのリズム隊セッションインスト曲がまた格好いいし、一部の楽曲ではThe CultのBilly Duffy、Guns N' RosesのSlash(!)までもがギターソロを弾くといったトピックもあるけど、そういった豪華な演奏陣/ゲストに決して気後れしない楽曲も素晴らしく、同時にとことんまでシンプルで、だからこそ強い。後に再録されクオリティアップする楽曲もあるけど、今聴くと物足りない音質や荒々しさが際立つボーカルといったある種の未熟さも、あまりにも赤裸々なメッセージも、ここではファーストアルバムでしかレコーディングできない熱や勢いといったポジティブな印象が勝る。現在まで続く彼のソロの音楽性の原点であり、まるで彼のテーマソングなタイトル曲「PYROMANIA」を始め永遠のライブチューンの宝庫とも言える渾身の一作。

 

 

 突然のINORAN・JというLUNA SEAの弦楽器隊2名のソロ1作目紹介記事でした。バンド本隊はもちろんソロ活動も好きで追っている管理人にとって、1997年のメンバーソロ作品というのは、終幕(2000年)以降とは色々な意味でちょっと違った存在感があって、個人的な思い入れも手伝い特別な位置づけだったりするのです。メンバーの性格やキャラクターとも最も直結しているような気もします。

 というわけで、『MOTHER』『STYLE』の再レコーディング盤やそれらの再現デュアルツアーなど熱い話題が続いている今、いつか書いてみたかった両名の97年ソロ作品の紹介記事をまとめて書いてみました。

 

 ちなみにSUGIZOのソロ1作目も過去に紹介記事を書いているので、よろしければ合わせてご覧下さい。

 河村隆一のほうは、単体ではなく彼の「全アルバムのヒストリー記事」の中で扱っているので、よろしければそちらでご覧ください。めちゃ長い記事なだけに苦労して書いたので、お時間がありましたら他の作品紹介文もご覧いただけると嬉しいです。

 

 

 なんか忘れてないかって?いやー、こうなってくると真矢のソロアルバムだけ欠けているのが気になりますが…発売当時には聴いたと思うし、シングル曲の「落下する太陽」は何となく覚えているんだけど…でもアルバムの印象は全く無く、現物や録音した媒体なんかも手元に残っていないということは…そういうことなんでしょう(謎)。今になってまた聴いてみたい気持ちはあるけど、わざわざそれだけ探すのもなんだかなぁ…というわけで(?)、今後どこかフラっと入った中古ショップでたまたま思い出してたまたま見つけることができたら、そのときは手に取ってみようかなと思います(おい)。

Vex Red / Give Me The Dark

 イングランド出身のオルタナティブロック/インダストリアルロックバンドの1st EP盤。(2019年)。

 

 Ross Robinsonのプロデュースのもとでアルバムを1枚リリースするも、それっきりで2003年に解散してしまった彼らが2015年に再結成、アルバムとしては約17年ぶりとなった復帰作。たった一作ながらも結構気になる作品だったのでこの復活は嬉しいものがありました。内容については、年月を経た分だけ成長というか円熟を感じさせる仕上がりで、どこか陰鬱な空気感や不安定な感情の乗せ方がサウンドの説得力と強く結びついていた一作目とは異なり、迷いが晴れたかのようなポジティブな輝きと、大きなスケールを感じさせるアンサンブルが印象的。歌を真っ直ぐ届けるためのロック、というか。前作にまだ比較的近いような楽曲であっても、荒々しさを抑えた音の重ね方やピアノ/電子音をアクセントとしてではなくしっかりと同化することで形作られたサウンドを聴かせます。7分超のラスト曲「Lake」に至っては、ピアノとシンセと消え入りそうな歌声の融合で非常に繊細な聴き心地をもたらす、もはやプログレッシブやポストロックに踏み込んだかのような新境地。しかし実際にそちら方面の人脈の助力も(多分)あったようで、実に堂に入った出来。それでも大きく様変わりしたような感覚を覚えないのは、アウトプットに多少の変化はあれど、彼らの核となるものが受け継がれているからではないかと。一作目とどちらが良いかは好みによるだろうけど、確実に今後の展開が楽しみになる、そんな一枚。

 

 

 今回の記事に合わせ、過去に書いた彼らの1stアルバムの紹介記事の文章を少々見直しているので、よろしければ合わせてご覧下さい。