MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

黒夢では『FAKE STAR ~I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER~』が特に好きだという話

 フェイク・スター~アイム・ジャスト・ア・ジャパニーズ・フェイク・ロッカー

 

 突然ですが、管理人は黒夢のアルバムの中で『FAKE STAR ~I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER~』が一番好きだったりします。音楽的な部分はもちろんだけど、思い入れが一際強いというのがそれ以上に大きい要因だったりもしていて。彼らを初めて知ったのは後追いの「Miss MOONLIGHT」だったように記憶しているし、もちろんその時点で好きにはなっていたのだけど、リアルタイムで新曲として体験したのが次の「BEAMS」からでして。彼らにとっても音楽性を大きく変え、タイアップのTVCMに自身も出演するなどメディア戦略も含め一種の区切り/ターニングポイントとなってブレイクに至ったこの楽曲に何か妙な“新しさの到来”みたいなシンクロを感じて、一聴した瞬間にそれまで以上に一気に惹き込まれたのが彼らに本格的にのめり込んでいくきっかけだったのでした。もっと言うと管理人が人生で初めて購入したアルバムがこの『FAKE STAR』だし、人生で初めてカラオケで歌った曲が「ピストル」(多分)だしで、この時期の黒夢が何かと自分の節目を彩ってくれたというのもあって、そりゃあ特別な思い入れになるのも我ながら頷ける。当時出演した歌番組の録画も未だに取ってあります。

 音楽的な部分では、それ以前までの佐久間正英とのタッグ体制から3人ものキーボーディスト/アレンジャーや複数のギタリストを追加し、シーケンスを中心にデジタル/プログラミング要素を大きく介入させたアレンジへ変貌。ヴィジュアル系特有の耽美さや儚さを一気に漂白し、「BEAMS」「SEE YOU」「ピストル」というポップに切り込んでいくシングル曲を柱に、タイトル曲「FAKE STAR」を筆頭としたパンキッシュな楽曲の強化におけるスピード感や激しさを際立たせつつ、異色のレゲエバラード「REASON OF MYSELF」のようなグラマラスなムードの曲で落とす側面もあったり、そういった緩急の意識された流れが4曲+αものSE曲を散りばめながら全体を強固に演出していて、バンドや清春の生き急ぐようかのな刹那的スタイル、より具体性を帯びた詞作からも滲み出す反骨精神、ギラギラとした上昇志向を具現化したような大衆性が奇跡的に溶け合って唯一無二の存在感を醸し出している、と思うのです。当時としても、基本はちゃんとバンドサウンドだけどやたら所々でデジデジしてるなという聴き心地があって、でもそれは何と言うか「多少聴きにくくしても打ち込みで楽曲を武装し迫力を出す」みたいな発想ではなく、ビーイング全盛の影響…とは言わないまでも、当時のJ-Popシーンへ照準を合わせ、見劣りしない華やかさを獲得するためにデジタルアレンジの補助を施した結果、という印象があるんですよね。だからなのか所々で時代を感じるような響きもあるし、この作風も彼らの中で一作限りというだけでなく、後続にもほとんど真似をするバンドや似た作品は現れなかったような気がします。まぁパンク以降の黒夢は簡単に真似できないものがあるけど、この作品は特に。90年代末にちょっと増えた(気がする)デジタルロック的なものの先駆け的な見方も出来なくはないかもだけど、なんか違う気もするし。そういう時代の色や希少性も含め、このアルバムの存在がより愛おしく感じてしまうんですよね。やがて管理人はインダストリアルロックが好きになるのだけど、音楽性は当然違うとはいえこの打ち込み+ロックのスタイルが後の好みに影響したのかも、と無理やり関連づけたくもなる。

 

 

で、「黒夢と言えば?」みたいな問いに対して、ある人は『CORKSCREW』に代表される後期のハードコアパンク路線を挙げるだろうし、またある人はヴィジュアル系シーンに大きな影響を与えた初期を挙げるかも知れないけど、自分の場合だと総括的に「キャッチーな歌モノロックでガンガンと突き進むバンド」というイメージで。きちんと“売れる”ことを意識しながらも、過去を否定してでもその時々でやりたいことをやる姿勢を崩さず、時にはファンを入れ替えながらも求心力を高め続けた。そんなバンドのあり方が最も象徴的に刻まれたのがこの『FAKE STAR』だと個人的に感じているし、自分にとっては黒夢と言ったら今でもこの作品を一番に思い浮かべてしまうという。ちょっと話はズレるけど、だからこそ2011年の再結成のときの彼らのビジュアルが『FAKE STAR』期に近かった(ように感じた)のと、13年振りの復活作『Headache and Dub Reel Inch』が少し『FAKE STAR』を彷彿とさせつつもアップデートされたデジタル/エレクトロニックなパンク/ロック色があったのも嬉しかったんですよね。まぁ黒夢全盛期を望んでいたリスナーへの受けは悪かったみたいに清春が述懐しているのをどこかで読んだ覚えはあるんだけど…。で、またちょっと関係ない話になっちゃうけど、再結成後の黒夢の2作品(『Headache and Dub Reel Inch』(2011年)と『黒と影』(2014年))、なんだかちょっと影が薄い気がするのは自分だけでしょうか。清春ソロやSadsとは違う黒夢のエッセンスを再確認/再定義して注ぎ込んだような意欲作だと思うし、自分にとっては紛れもなく上で挙げた「黒夢と言えば」のイメージにも合致する、90年代の諸作品と並べても何ら見劣りしない凄く良いアルバムだと思っています。やっぱりカラオケでも「heavenly」とかめっちゃ歌ったし。ってそれはどうでもいいか。

 

 

 最後に。なんでこんな記事を書いたかというと、この界隈のバンドで黒夢ほど好きなアルバムが人それぞれ違ったり、それについて一家言というかこだわりや思い出がそれぞれにあるような存在もそうそうないんじゃないかとふと思ったからで。もちろんどんなアーティストも基本そうなんだろうけど、黒夢はやっぱりヴィジュアル系黎明期からの活動でシーンの勃興に貢献し、後続に多大な影響を与えたジャンルの元祖的存在から始まり、やがて攻撃的なハードコアパンクに行きつくほどに音楽性が大きく変わり続け、しかも安定的にチャートの上位にランクインしながらメディア露出もガンガンやって、後期は怒涛のライブバンドとなり…と目まぐるしくも濃い活動でファン層を広げ、色んな人に色んな刺さり方をしてそうな稀有な例だと思ったので。更に言ってしまうと『FAKE STAR』を彼らの一番に挙げる人って少なそうだなとも思ったので、その辺りの自分なりの経緯や刺さり方を、普段のレビュー記事とは違う形でぶちまけてみました。とはいえ逆張りや少数派を気取りたいわけではなく。もちろん黒夢そのものが大好きで、全アルバムとも飽きるほど繰り返し聴いたし、気分や日によって入れ替わりもする…そんな中で、というお話です。ついでに言うと、ここまで長々と書いてきたけど、管理人は黒夢以上に清春ソロが好きだったりします(オチ)。

 現在行われているメジャーデビュー30周年を記念した清春のロングツアーのファイナルは黒夢としての約10年ぶりのライブが行われるようで、その内容に多大な注目と期待を寄せつつ楽しみに待とうと思います。もっと簡潔に書き殴るつもりだったけど、なんだか思いの外ダラっとした記事になってしまったような…っていつものことか。ここまで読んでいただきありがとうございました。