US/イリノイ出身のAl Jourgensenを中心としたインダストリアルバンドの1stアルバム(1983年)。
インダストリアルメタルというジャンルの偉大なるパイオニアとして名を馳せるMinistryの記念すべき一作目は、そのイメージで後追い鑑賞すると誰もがひっくり返るであろうほどに超ポップなシンセポップアルバム──というのは、この界隈ではあまりにも有名な話。何でも、当時一時的に所属していたレーベルからの不当な圧力によって、音楽性や制作スタッフ、歌詞やルックスに至るまで強制的に指示されて半ば無理やり作らされたのだとか。作曲自体はAl Jourgensenが一応全て行っているけど、キーボードを中心に管楽器や女性コーラスを重用し、強烈に漂うディスコティックなムードの中で甘いメロディを朗らかに歌うボーカルといったサウンドメイクは、Duran DuranやVisage辺りにも比肩するレベルでキラッキラ。なるほど「イギリスのニューロマンティクスに対するアメリカからの回答」と評されたのも納得。ただ、売ることをとにかく目指したであろうだけに商業的な完成度には気合いの入りようが感じられ、実際に結構売れたらしい。それでもAl Jourgensenは本作を快く思わず、レーベルとの不和から係争/脱退劇に繋がったし、2012年に再販されるまで長年廃盤状態だったようです。管理人の場合、こういった音楽は好きだけど深掘りまでは出来ていない、程度の感覚なので、耳当たりの良さで普通に楽しめちゃったりします。哀愁感とわざとらしいクサさが好き。それと楽曲によっては分解したら後のMinistryに繋がりそうなマニアックさが感じられたりもするんですよね。気のせいかもしれないけど。そしてここ数年では「当時の悔しさが後の自分の路線を決定づけたから感謝している」的な発言をしていたり、30数年ぶり(!)にライブで披露するなど封印状態にあった本作へ肯定する意識が向けられており、Ministryとしての最終作には本作の収録曲をいくつか再録音するとも予告されています。『With Sympathy』で始まった歴史が『With Sympathy』で閉じるのだとしたら、なんだかじんわりと来ますね。
こちらはアルバム未収録の初期シングル集(1987年)。インダストリアル/パンク系を扱う当時のシカゴの新興レーベル・Wax Trax! Recordsよりリリースされたもので、Ministryとしてのデビュー曲(ファンクの影響を素直に抽出した「Cold Life」)や、1stアルバム『With Sympathy』を挟んでWax Trax!へ出戻りし、Al Jourgensenのソロプロジェクト状態となりリリースされたシングル計4枚の中から8曲を収録。1986年にインダストリアル/ダブ界の巨匠・Adrian Sherwoodと共にEBMの金字塔と評されることになる傑作2ndアルバム『Twitch』を作り上げるまでの習作集+α、という見方もできそう。初期の大名曲「(Every Day Is) Halloween」などに見られる、リズムやアクセントはEBMに比肩する跳躍感と迫力を擁し、しかし上物や歌のニュアンスはシンセポップの柔らかさを保っている──という“EBMとエレポップの要素がちょうど半々”的な過渡期とも言える音像や、Front 242のRichard 23が参加したことでRevolting Cocksの結成へと繋がった「The Nature Of Love」といった、この時期ならではの“殻を打ち破る直前”的な作風を楽しむことができます。普通ならこういう編集盤まで手に取るのはコアなリスナーくらいだとは思うのだけど、Ministryの場合はある時期までの歩みそのものがインダストリアルロック/EBMの歴史に直結するものがあるので、そこを補強するという意味で興味深く聴ける一作。2014年には2枚組で再発されており、2004年にリリースされた本作の拡張版的な存在だった初期楽曲/未発表曲集『Early Trax』のラインナップ等が加えられた完全版となっています。
そのアーティストの普段の路線とはかなり外れたような楽曲や作品は「別物だと思えば良作」的な文言でフォローしたり評価されたりっていうのが一種の定番だと思うんですが(もちろん本心だろうけど)、Ministryに関しては初期は本当にまるっきり別物なのでそれ以外に形容のしようがない…という(笑)。ただ、上にも書いた通りここ数年のAl Jourgensenはこの辺りの初期楽曲に関して、30数年ぶりにもなるライブでの披露や再録音の予告などの掘り返しを行っており、ファンの間でもよい再注目のタイミング…なのかも。管理人も久々に聴いてみたら、やっぱりこれはこれで悪くないな~と。Ministryの黒歴史という情報を込みにした楽しみ方や、抜きにした一つの音楽としての感触なんかを噛みしめたりして、Ministryというバンドが今度こそ本当に終局を迎えそうという状況に思いを馳せながら聴き返しており、今回の記事となりました。今後の彼らの動向により注目していこうと思います。