MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Vampire Rodents "Lullaby Land"

Lullaby Land

Lullaby Land

  • Rodentia Productions
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 アメリカ/アリゾナ出身のアヴァンギャルド/インダストリアルバンドの3rdアルバム(1993年)。

 

 前作が好評でインダストリアル系のレーベル・Re-Constriction Recordsに見い出され、そこからリリースされた3作目。彼らの作品の中でも傑作の部類だという話です。まず気づくのは、コラージュ/サンプリングにまみれ混沌としていたサウンドから憑き物が落ちたかのようにシンプルになっていること。前作に続き専用プレイヤーのチェロ/バイオリンを有効的に使いつつ、ギターにも重点を置かれ、ガリガリと乾いたエレキギターが常時どこかで鳴っているようなスタイルになり、それぞれの楽器の鳴りがくっきりしていて比較的アンサンブルが分かりやすくなっている印象を受けます。ただしホラーっぽさは変わらず折り重なりもあくまでも複雑だし、何の前兆もなく急にスパッとテンポチェンジしたり場面転換したり、時には全く異なるタイプの曲調に繋がっては戻ったりと、横の展開(?)の目まぐるしさが強化。何となしに聴いていると「ん?いま曲変わったのかな?」と頭がこんがらがることも。サウンドのみならず曲展開すらもコラージュ多用とあって、初めて(1stアルバムと勘違いして)聴いたときは頭の上に「?」が浮かぶだけでした。でも改めて過去作から順番に聴いてみると、彼らのクラシック/前衛音楽などのルーツや、BabylandやChemlabのメンバーとのコラボ、ジャズ/民族音楽などにまで手を広げたコラージュセンスがここで実を結び、彼らなりの傑作たらしめているという評価にも合点が。この一歩間違えばグチャグチャなのに成り立っている不思議さ、「そういう音楽」と捻じ伏せる存在感は、体験する価値があったと個人的には思っています。

 

BUCK-TICK / 夢見る宇宙

夢見る宇宙

夢見る宇宙

 

 5人組ロックバンドの18thアルバム。

 

 メジャーデビュー25周年イヤーに発足された自主レーベル・Lingua Soundaより発売された最初のアルバム。曲数の多い傾向にあった近々のアルバムに比べると全11曲とコンパクトな上に、先行シングル2枚からAB面の4曲を(別アレンジで)収録ということもあり一見ボリュームは控えめに映るけど、作品が醸し出すスケールは決して見劣りすることなく、期待を裏切らない一作に仕上がっています。中盤辺りまでは直球ポップな曲、ロックンロールに振り切った曲、ライブで活躍しそうなクラップ全開の曲など比較的明るく突っ走っており、同時に作品のイメージも牽引。ファンには古くから馴染みのあるフレーズを楽曲名に冠した「CLIMAX TOGETHER」、アルバム収録に際して賑やかなブラスロックに変貌した「ONLY YOU -WE ARE NOT ALONE-」等は特に印象も強烈。また、猛禽(raptor)の生態と(同名の)戦闘機の存在意義をダブルミーニング的に紐づけた「INTER RAPTOR」は、そのサウンドのみならず発せられるメッセージも攻撃的。そしてこの曲に限らず、一歩踏み込んだ死生観を匂わせる歌詞が多い部分には3.11の影響も見え隠れするし、幻想的なジャケットや空間/余韻を強調するような音作りもあって、ただポップなだけでない、シンプルなフレーズを丁寧に紡ぎながらも捻りのある世界を構築しているのは正にB-Tならでは。そしてノイズと浮遊感を増したアレンジが光るラストの「夢見る宇宙 -cosmix-」にて、包み込むような展開から最後に飛散していく流れが感涙もの!重厚なサウンドや世界観のアルバムでは決してないし、そういうものを期待する人には不満も残るかも知れないけど、個人的にはかなりお気に入り。

 

KOTOKO / 空中パズル

空中パズル(通常盤)

空中パズル(通常盤)

 

 I've出身ボーカリスト/シンガーソングライターの6thアルバム。

 

 独立/移籍後のアルバムとしては2年ぶり2作目になり、全曲書き下ろしかそうでないかの違いはあれど、I've内外の作家から提供を受けた楽曲群に自作曲を添えた自己プロデュース盤という構造は共通。多数の作家が参加した前作からは齋藤真也とDECO*27が続投し、特に齋藤真也はリード曲を含め数曲の作編曲を担当。そして彼と関係も深いfripSide八木沼悟志による楽曲も3曲収録。この2人のカラーが作品のイメージに大きく貢献しており、新風を吹き込むと共にクオリティもグッと底上げしています。特にロック系の楽曲は、これまでのKOTOKOに多かった"I'veサウンドとロックの摺り寄せ"ではない明快なアプローチに徹したものが多く、「Light My Fire」(これはsupercellのryo作だけど)を始め、ライブでの盛り上げを見据えたようなパワフルさが爽快。一方、八木沼悟志の楽曲はそれだけで一枚通すとちょっとクドいけど(えっ)、これくらいの曲数だと丁度いいし、ラストを「→unfinished→」で飾るのは流れとしても意味としても最高。そして高瀬一矢によるこれぞI've!と唸る楽曲も負けじと冴えを見せています。全体としてはバラードどころかミドルナンバーすらも僅かに留まり、アップテンポな楽曲がほとんどながら、バランスに気を配られていて飽きないし楽しい。KOTOKOのメジャーでの活動は、シンガーソングライターとしてのエゴを出したり、逆にI'veに特化したりといった面を見せてきたけど、もしかしたら本作こそが彼女の魅力が最もニュートラルに伝わるかも。メジャーデビュー10周年目前の6作目、というキャリアながら、ここに来て最高傑作と言えるくらいの内容。何かと中途半端だった前作から一転、一気に突き抜けまくった快作!

  

Wiseblood 『Dirtdish』


Dirtdish

Dirtdish

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 FoetusことJG Thirlwell(本作ではClint Ruin名義)とSwansの元ドラマー・Roli Mosimannによるインダストリアル/ノイズロックユニットのアルバム(1987年)。

 

 Foetusが活動の拠点をロンドンからニューヨークに移した際に結成されたユニットの唯一のアルバムで、セッションプレイヤーとして活躍していたRobert QuineやSwansのNorman Westbergの両ギタリスト等も参加。何とも通好みのしそうなコラボ。個人的にSwansは初期の方しか知らなくて、とてつもなく遅くて重い怨嗟の音楽というイメージがあったけど、本作に関してはそこまでマニアックなわけでもなく、小粋なギターやシンプルながらも存在感を放つジャンクなドラムで小気味よくロックンロールしてます。これ以前のFoetusの音楽よりも噛み砕かれフィジカルが強調されたような感覚があり、素直に入り込みやすい。そしてFoetusの型破りで奔放なボーカルは流石としか言いようがなく、一時も耳を離させないばかりの歌と咆哮。特に「Someone Drowned In My Pool」は彼の独壇場。前半はジャジーなムードに浸りきり、終盤で一気に音が増え怒涛の展開の中で同一のフレーズを叫びながら混沌としていく流れは鳥肌もの。また「0-0 (Where Evil Dwells)」はFear Factoryの強烈なカバーを先に聴いていたので、原曲の(これはちょっとSwansっぽい)抜き身のような迫力を確認できて満足!インダストリアル(ロック)に限らず、様々な影響を与えたレジェンドの共演とNYアングラシーンの熱量を記録した稀有な作品。ちなみに1995年の再発盤にはシングル盤の音源も収録。ミニマルビートが心地よい「Motorslug」は大好きな一曲。んで、あちこちで名曲とかFoetusのお気に入りとか言われていた「Death Rape 2000」の方は…これは… 

 

D'espairsRay / MONSTERS

MONSTERS

MONSTERS

 

 4人組ヴィジュアル系ロックバンドの4thアルバム。

 

 メジャー作としては2作目であり、彼らの最終作。ここまでアルバムリリースごとにより聴きやすくなっていった流れはあったけど、さすがにそれは前作がピークになり、本作は若干ではあるものの以前のハード/ダークさを取り戻そうとする楽曲も一部見られます。ただそれもアルバムを特徴づけるものではなく、全体的には程よくヘヴィで程よくキャッチーなヴィジュアルロック。傾向として、過去作では初期にゴスっぽい雰囲気を醸したり、前作でキラキラ感を出すのに応用していたシンセの主張が本作ではほぼなくなり、シンプルなサウンドに回帰しながら所々でエレクトロニック要素をさりげなくかつスタイリッシュに組み込む感じに。ただ、それをグッと生かした曲はアルバム前にリリースされたシングル「LOVE IS DEAD」くらいしかなく、これはメロディアスで格好良い大胆なダンスロックっぷりが新しさも感じてかなり好きだったけど、アルバム曲でそれを上回る曲が見当たらず、全体的にはポップにもマニアックにも振り切れずに、特に山場もないままツルッと聴き終えてしまうので物足りなさが拭えない。決して悪い作品ではないけれど、1st~2ndが良すぎてどうしても霞んでしまうというのが正直なところ。彼らにはまだまだ今後を期待していたのだけど、この後ボーカリスト・HIZUMIの喉の不調で活動を休止し、結局復帰しないまま半年後に解散。とても残念だったけど、この解散がなければギタリスト・Karyuが次なるバンドとして加入し5人体制になったAngeloもなかったわけで、両バンドのファンの管理人としてはちょっと複雑な思いなのでした。