MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

I've / G.C.BEST -I've GIRL's COMPILATION BEST-

G.C.BEST -I've GIRL's COMPILATION- 初回盤

G.C.BEST -I've GIRL's COMPILATION- 初回盤

 

 北海道に拠点を置き、アニメ/ゲーム系の楽曲を中心に制作するクリエイターチームによるGIRLS COMPILATION(以下:GC)シリーズの編集盤。

 

 I've発足15周年を記念したベストアルバム。過去にリリースしたGCシリーズ全7作品+αの全楽曲を対象に人気投票が実施され、その上位25曲に新曲を加えた全26曲をリマスタリングし、2枚組でまとめられた大ボリューム盤。そもそもGC自体がその時々の選りすぐりを形にした編集盤なわけで、そこから更にふるいにかけるとなると、本当に珠玉の楽曲しか残らない贅沢極まりない作品になること必至、なのです。で、収録曲を見てみると、近年のGC「EXTRACT」「COLLECTIVE」からの選出が多めで、それらの名曲率の高さが分かる一方で、逆に初期作からの選曲は控えめ。なので新旧満遍なくというよりは「どこに出しても恥ずかしくない曲」がキッチリ揃った感じ。この辺り、思い入れの深さと完成度の間で逡巡する古参ファンの複雑な感情が伝わるよう(笑)。まぁ「The Front Line Covers」(最初期の楽曲を黄金期の歌手でカバーした作品)も出ているし、偏りはある程度仕方ないのかな。しかしI'veの原点である「FUCK ME」(美妃)だけは当然のように選ばれています。やっぱりこれは必須。アルバム初収録となった日本武道館ライブの配布曲「Fair Heaven」(I've Special Unit)も感動的だし、ここでしか聴けない書き下ろしの「Blaze a trail」(川田まみ)もソリッドで格好いい。他も概ねI've黄金期を支えた歌手、また彼女たちにとって重要な位置づけになった曲、人気の高い曲、象徴するような曲は昔の曲も含め大部分が押さえられていると言ってもよく、複数の個性的な専属歌手を擁する強み、多彩なクリエイターとの化学反応といった武器を最大限に生かし、核となるものを保ったまま進化を続け、多くの同業者や後続にも影響を与えるなど、絶大なブランドを築いたI've soundの歴史そのものが垣間見える作品になっています。I've(メジャーのI'veしか知らない人含む)への入門として非常に魅力的だし、コアなファンにとっても(人によっては選曲に多少の不服はあれど)、当時のPCゲーム業界の隆盛も含め、もう二度と来ない時代への憧憬も重なった唯一無二の良曲集であり続けることでしょう。 

 

 

全曲レビューも書きました。こちらからどうぞ。

51 Peg / Strange Appointments

Strange Appointments

Strange Appointments

 

 US出身のシンセロック/インダストリアルロックバンドの1stアルバム。

 

 バンド名は「ペガスス座51番星」より。彼らを知ったのはだいぶ前だけど、今でもなかなかネットに情報が転がってないし、作品もそんなに数出てないし、こんなマイナーなバンドをどこで知ったのかもよく覚えてない…何か気になるバンド名とジャケットにピンと来たのは確かだけど。彼らはバンドの編成自体が少し変わっていて、ギター、シンセ、そしてギターシンセを擁するけど、ベースが不在。だけど低音が物足りないとかそういうのは当然なく、厚ぼったいギターをかき鳴らし、浮遊的なシンセが彩り、変幻自在のギターシンセが支えるサウンドは、残響多めでアトモスフェリックに音空間が広がる感じで、バンド名に違わずちょいダークかつスペーシー。貫禄たっぷりの男臭いボーカルが歌い上げる様もあって、近々のシンセロック系にありがちなサイバーな作り込みやスマートさはなく、どちらかと言うとヘヴィロック的なノリで、荒々しいミックスも合ってると思います(低予算なだけか?)。彼らはNine Inch NailsDepeche Modeに影響を受けたらしく、またそれらやMarilyn Mansonなどに例えられたりもするようだけど、ハードル上げ過ぎでは(笑)。個人的によく聴く範囲であえて言うならOrgyやMisery Loves Co.あたりを彷彿とさせるところはあるかも。ともあれ、無名なのが不思議なくらい良いと思いました。スローナンバーがやや単調なので、そこにもう一工夫あれば更に良かった。

 

zilch / 3・2・1

3・2・1

3・2・1

 

 X JAPANのギタリスト・hideを筆頭としたプロジェクトバンドの1stアルバム。

 

 The Professionalsの元ギタリスト・Ray McVeigh、Killing JokeやProngの元ベーシスト・Paul Ravenを加えた3名を中心とし、楽曲ごとに元Sex PistolsのSteve Jones、元Nine Inch NailsのChris Vrennaなど幅広い一流ゲストを迎える体制。hideの「海外進出」「純粋にやりたい音楽の制作」等の実現を主な目的にしていたとのこと(※本作はhideの没後に発売)。それだけに音の方は世界基準というか、それこそ海外のトップバンドにも比肩する程にヘヴィでグルーヴ感に溢れ、かつ身軽で遊び心にも満ちたもの。メタルやパンクやインダストリアルだけでなく、ヒップホップやサーフロックなど多方面からのミクスチャー感覚を元に見事なまでに一本化。また、イヤホン等で隅々まで聴くと色々な仕掛けにも凝られているのが分かるし、それが過剰にも冗長にもなっていない絶妙さにも舌を巻くばかり。攻撃的な側面と聴く者を楽しませるユーモアの両立ぶりや、それをポップに響かせる優れた手腕は、まさにhideの唯一無二のセンスそのもの。また、ソロで発表済みの「DOUBT」「POSE」、X JAPAN「DRAIN」のhide版とも言える「WHAT'S UP MR. JONES?」等は本作向けの苛烈で理想的なセルフカバーとなっているし、本作の「INSIDE PERVERT MOUND」を「LEATHER FACE」としてソロでカバーした点からも、彼の創作に対する境界線のない姿勢や、本作が一種の集大成的な作品であることが伺えます。"大人の事情"で発売が1年延びなければもっと違った評価を得ていたと唱える声もあるし、個人的にもこんなに魅力的なロックアルバムにはそうそう出会えないと今でも強く思います。

 

KOTOKO / ヒラく宇宙ポケット

ヒラく宇宙ポケット

ヒラく宇宙ポケット

 

 I've出身ボーカリスト/シンガーソングライターの5thアルバム。

 

 メジャーデビュー5周年を機に打ち出した「今後は(小文字の)kotoko名義でI've外の活動も行う」という計画も結局のところそれほど遂行されず、その約2年後にはI'veからの独立を発表した彼女。事務所/レコード会社の移籍第一弾となった本作は、これまで通り自身の曲・I'veの提供曲に加え、全く外部の作家(主にボーカロイド界隈で活躍した同人系クリエイターを含む)による作編曲も多数収録。さぞバラエティに富んだアルバムになりそうなものだけど、実際のところは散漫さが先行しあまり魅力を感じないという。同人系は管理人は1ミリも知らない世界なので、期待も不安も持たずフラットに聴いたのだけど、取り立てて良くも悪くもなく。KOTOKOを活かすための曲というよりは、それぞれの手グセに収まっている感じで、従来のリスナーを惹き込むほどの化学反応は無いかな。kotoko名義の曲の方がよほど格好いい。かと言ってI'veの曲も、まさか外部の作家に遠慮した訳でもないだろうけど、大半が地味。何よりも、各曲がバラバラの方向を向いていて、1つの作品としてのまとまりに欠けるのがイマイチに聴こえる原因か。印象に残ったのは、ストリングスと並走する爽快な王道のポップ/ロック「開け! ソラノオト」くらい。実は本作は初の全編セルフプロデュース作でもあるのだけど、彼女はボーカリストとしては確かな実力を有していても、プロデュース能力は発展途上というか、新しい環境の中、まだフルアルバムをまとめきる段階にはなかったということなのかも。