MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

川田まみ / MAMI KAWADA BEST BIRTH

MAMI KAWADA BEST BIRTH (通常盤)

MAMI KAWADA BEST BIRTH (通常盤)

 

 I've専属ボーカリストの編集盤。

 

 キャリア初となるベストアルバム。その内容はメジャーデビューから本作発売前後までの約8年間におけるシングル曲を"ほぼ"網羅し、終盤にインディーズ時代の楽曲と新曲を収録したもので、実質的にはシングルコレクション+αという形。それを彼女のベスト盤と呼んでいいのかという疑問はさて置くと、一つの作品としては文句なく素晴らしいもの。それは別に彼女のアルバム曲が不要だとかそういう意味ではなく、大型タイアップと二人三脚でじっくり作り上げてきた彼女のシングルヒストリーが、そのままI'veサウンドの進化の歴史とリンクしたという事実。既に同I'veで活躍中だったKOTOKOとの差別化も(初期は似ていたと評されていた)恐らくは課題だっただろうけど、1stシングル「radiance」でその回答を見せ、バラード「赤い涙」で落とし、パンキッシュな「Get my way!」やハードロッキンな「JOINT」で加速し、テクノロジーとロックが高次元で融合した名曲「No buts!」に繋がるなど、彼女とI'veの音楽性が完成していく様が手に取るように感じられるんですね。そこにはシングルをただ並べただけとは思えない聴き応えがあり、彼女の成長譚を追体験するようでもあり。特に中盤以降の楽曲の並びは圧巻の完成度。インディーズ(PCゲーム)曲も、彼女のボーカルデビュー曲の再録や代表曲「eclipse」等、最低限ながらも抑えるべき曲が並ぶ。後に引退に合わせた3枚組のベスト盤も出たけど、手軽さや入門用としての価値は依然高いし、選択肢の難しさから悩ましい出来になりがちなI've専属歌手のベスト盤としては1、2を争う程にお勧めできます。

  

Pain / Dancing With The Dead

Dancing With the Dead

Dancing With the Dead

 

 スウェーデン出身のメロディックデスメタルバンド ・Hypocrisyのボーカリスト/ギタリスト・Peter Tägtgrenによるインダストリアルメタル/シンフォニックメタルプロジェクトの4thアルバム。

 

 1曲目「Don't Count Me Out」のズンズンと刻まれるギターという始まりからして、過去作の音像とは一味違うような印象を抱かせる幕開け。より重心を低くしてヘヴィな質感を強化し、時にうるさいくらい耳に刺々しく響く轟音メタルサウンドがベースにあるというだけでも、かなりサウンド面でのインパクトは増しましたね。このプロジェクト自体、Peter Tägtgrenが一人で全てのバックトラックを制作しているのだけど、よりバンドサウンドが頼もしく強固になったというか。その他でも、デジタル/エレクトロニックな装飾は要所要所で目立ちすぎない程度に、かつ絶妙に楽曲を補強し、一方で前作から全面的に表に出始めたシンフォニックなストリングスも、曲によってはバンドサウンドを包み込むかのように遠慮なく存在感を示す。PainをPainたらしめる1つ1つの要素に対し磨きをかけた結果、楽曲に更なる広がりや深みが生まれ、独自のメロディセンスも相まって、より進化を遂げたような格好になっています。ヒットシングルの「Same Old Song」や、ピアノも取り入れた叙情的なアップチューン「Not Afraid To Die」などの佳曲には、それが顕著に表れています。彼自身、高い評価を受け広い分野で活躍するミュージシャンであり、Painという単位でも特に2作目以降はここまでどれも優れた作品(特に2ndはキャッチーさで言えば本作以上)なのだけど、本作では総合的にそれらを超え、1つのピークを迎えたと言っていいでしょう。 インダストリアル/シンフォニックメタルの名盤!

 

BUCK-TICK / RAZZLE DAZZLE

RAZZLE DAZZLE

RAZZLE DAZZLE

 

 5人組ロックバンドの17thアルバム。

 

 本作の制作時に前作「memento mori」が一種の集大成だったいう気づきがあったり、そのツアーにおける収穫等も反映し、本作の方針を固めたというエピソードがあるようです。その結果、より単純にライブでノれるものだったり、ダンサブルなビートを追求しつつ、「ディスコ」をキーワードに下世話な喧噪や80年代風のアプローチも盛り込んだ意欲的なサウンドの構築に成功。いかにもB-Tらしい世界を打ち出した黒い曲を始め、そこから逸脱した曲をいくつかは挟みつつも、CUBE JUICE長尾伸一)の手によってアルバム用にチューニングされたシングル曲も含めベースとなる作風は一貫されており、「馬鹿騒ぎ」というタイトルが付けられたのも納得のダンスロックアルバムに。文字通り緊張感や刺激というよりは快楽的ムードや遊び心の方に耳が行き、中でも受精をモチーフにした「狂気のデッドヒート」における櫻井敦司の絶叫までもを歌詞の一部にするという離れ業や、「BIBBIDI-BOBBIDI-BOO」なんてワードが飛び出すラテンナンバー「Django!!! -眩惑のジャンゴ-」辺りは特に痛快極まりなく、コミカルの域にまで行った表現には驚きさえも覚えます。櫻井敦司今井寿が歌詞を持ち寄ったという「TANGO swanka」も、そんな本作ならではの試みという感じ。一概に全てがそうではないとはいえ、絞ったテーマで15曲というボリュームはさすがに中ダレしてしまう面は否めないけど、集大成的な作品の後でもその勢いをとどめない彼らのバイタリティには敬服するばかりです。

 

島みやえい子 / EIKO SHIMAMIYA PRODUCE 5TEARS Vol. 2

5TEARS Vol.2

5TEARS Vol.2

 

 I've出身シンガーソングライターによる企画盤(2012年)。

 

 コミックマーケット83にて販売、後に一般販売された作品。文字通り、島みやえい子のペンによる楽曲を、自身を含む5人の歌手が歌う企画盤の第2弾で、前作のちょうど1年後にリリース。今回はジャケットがちゃんとしてて安心。島みやえい子以外の参加歌手が一新され、彼女と同じくI'veに所属していたSHIHO、Keyの作品のテーマソングを数多く歌ったシンガーソングライター/声優の多田葵ビジュアルアーツを代表する歌姫のLiaらが参加。SHIHOが歌うR&B風の「Distance」、Liaの高い歌唱力を堪能できる神秘的な三連バラード「Infini」、多田葵の柔らかい歌声と(文字通り?)生楽器を主とした「ピチカートの涙」(名曲!)などは、各歌い手の実力と、その個性に見合うようにアレンジを詰められておりどれも秀逸。そして島みやえい子が発掘したという鳥畑うみは、「ジェイドの龍」にて無名の大学生とは思えない堂々たる歌いっぷりで、そのファンタジックな世界を見事に表現。島みやえい子は先だって公開されていた安定のタイアップ曲の収録とは別に、Key筆頭の作家・折戸伸治が編曲を手掛けた書き下ろしリードトラック「青秋18切符」を担当。楽しげな列車の旅というテーマを軽快に歌う姿は逆に新鮮に映ってとても良かった。という訳で、1曲ごとのクオリティは勿論、オムニバス的な企画盤ならではの狙いもより鮮明になり、前作よりも遥かに好きですね。I've~Keyど真ん中ではないにしろ、その辺りの人脈に覚えがある人なら地味に楽しめそうな一枚。 

 

Slick Idiot / Sucksess

Sucksess

Sucksess

 

 KMFDMの元メンバー・En EschとGünter Schulz(Pigfaceにも参加する2人)を中心としたインダストリアルロックバンドの3rdアルバム。

 

 彼らの音楽を一言で言うと「ポストKMFDM」で、1997~1999年辺り(つまり解散前)のKMFDMを彷彿とさせるものがあるんですね。ゲストミュージシャンや女性コーラスを招いた、ちょっとテクノに接近した小気味よいインダストリアルダンス/ロックで、彼らの場合はGünter Schulzの攻撃的なギターリフが特に目立つという。少し違うアプローチを加えてきた前作でも基本それを踏襲していたけど、本作はその定型からもう一段階逸脱してきたという印象。曲によってはEDM、ドラムンベースハードテクノなどを取り入れるなど明確な変化があったり、DAFのカバーと言われても疑わないエレクトロパンク風の曲までも披露。全体的にも女性コーラスやGünter Schulzらしさ満点のギターフレーズなど、お家芸とも言える手法を以前ほど全面に出すことはしていないようだし、意図的に自分たちの音楽を再構成しているような趣。Günter Schulzのギターは凄く特徴的な分、連発すると大味に聴こえるのでこれはこれで良いと思います。こうして聴くと、1999年のKMFDM解散以降、再結成したKMFDMはヘヴィビートを極める方向へ進んだけど、こっちはこっちでアナザーKMFDM感覚で聴けるバンドとして、悪くない進化を遂げているのかなと。今は活動は止まっているようだけど、もし新作が出たら期待すると思います。