MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Assemblage 23 / Storm

Storm

Storm

 

 US出身のTom Shearによるフューチャーポッププロジェクトの4thアルバム。

 

 前作から頭角を現し始めた彼が、今作で一気にフューチャーポップ界のトップに躍り出たとされる傑作。まず見違えるくらいに鮮やかになったシンセとその上物が鮮烈で、その音色の透明感・メロディの素晴らしさで全体の印象の8割を占めるんじゃないかと思うほど。まるで鳥瞰や空撮の映像を想起させるような、とても自由で済み切った世界が広がるかのよう。地味に徹するボーカルとの対比もある意味良いバランスで、歌のサビとイントロや裏メロのフレーズのどちらが主役なのか分からないくらい。そして中途半端にスローナンバーを差し込んでいた前作までと違い、ほぼ前編に渡ってスピード感のあるダンスビートと彼の特徴的強みでもある高速ハイハットが組み合わさったリズムトラックに乗せられているので、体感速度も速くとてもテンポ良く爽快に聴ける。反面やや単調という見方もあるかも知れないけど、ここまで究めればそれだけで十分な完成度とアイデンティティを生み出していると個人的には思います。Apoptygma Berzerkにも同じことを思ったけど、シンプルに聴かせる明るいフューチャーポップは、メロディの流れや音色の美しさでインパクトを出せれば勝ちだなと。そしてその到達点の一つがこの作品じゃないかなと。

 

Cyberaktif / Tenebrae Vision

Tenebrae Vision by Cyberaktif (1993-04-08) 【並行輸入品】

Tenebrae Vision by Cyberaktif (1993-04-08) 【並行輸入品】

 

 Skinny PuppyのCevin Key、Front Line AssemblyのBill Leebらによるコラボレーションユニットのアルバム(1991年)。

 

インダストリアル/EBM界で名を馳せている二大巨頭の中心メンバーだけでなく、更にEinstürzende NeubautenのBlixa Bargeldも制作に関わっており、なんとも豪華なメンバーがクレジットされた作品。通常ならさぞかし期待してしまうところだけど、蓋を開けてみるとあんまり面白くない。音づかいは所々確かに痺れるものはあるし、初期Nitzer EbbSkinny Puppyといった趣の「Brain Dead Decision」は結構気に入ったけど、トータルではダラダラとした聴き心地で、淡々としすぎたハンマービート/ボディビート・空を切るサンプリング・盛り上がりに欠けるボーカルの組み合わせで刺激に欠け、元ユニットの雰囲気は端々に感じられるけどその良さはすっかりスポイルされており、何だか中途半端でよく分からない仕上がり。実はこのアルバム、昔インターネット上で見た「EBM/Industrialのスーパーグループはハズレばかり」という定説の代表作だという酷評で存在を知ったもの。故に管理人はそれを確認しつつ怖いもの見たさ的な動機も合わせて聴いてみたわけですが(つまり自業自得)、期待が大きかった人にとってはなるほどそうかも知れないなと納得してしまいました。ゆえにやはりというか、あまりお勧めはできません。

 

God "Possession"

Possession

Possession

  • アーティスト:God
  • Virgin
Amazon

 イギリス出身のダブ/インダストリアルシーンのマルチミュージシャン/プロデューサー・Kevin Martinを中心としたフリージャズ/インダストリアルメタルユニットの1stアルバム(1992年)。

 

 1987年にKevin Martinとギタリストの2人で結成され、翌年にGodfleshを始めたばかり?のJustin Broadrickと邂逅し本格始動という経緯があるようです。本作以前にはJustin Broadrickがプロデューサーに就きシングルやライブ盤などをリリースし、初のスタジオ作である本作にはプレイヤーとして参加(多分)。他にはJohn ZornやTim Hodgkinsonなど著名な実験音楽畑のミュージシャンも制作に関わっているようです。内容はスローなグルーヴで反復を繰り返すドラムやダブに接近したベースラインにフィードバックギターがどっしりと重く、GodfleshやScornのような音がよりコアに生で鳴っているといった趣だけど、その上を無軌道に駆け巡るサックスやヒステリックなピアノの合わせ技が衝撃的。音階を奏でるというよりもノイズのような使い方で、先の読めない即興のようなフレーズが無秩序な全体像を加速させています。相当マニアックな音楽だと思うけど、実験音楽やフリージャズに理解のある人だけでなく、GodfleshやEarache Recordsのバンドなんかが好きなら何かしら響くものはあるかも。ただ、彼らのCDは全てが入手困難品の模様(管理人はたまたま本作のみ入手)。Godはあまり評価を得られず終わったそうだけど、こういう実験精神が後の数々のプロジェクトに繋がっていったのだろうと思います。

 

Devin Townsend / The Hummer

The Hummer

The Hummer

  • HevyDevy Records
Amazon

 カナダ出身のマルチミュージシャン/プロデューサー・Devin Townsendのソロ通算9作目、Devin Townsend名義での5作目(2006年)。

 

 前作「DevLab」に続くアンビエントアルバム第2弾で、前作同様にレーベルの限定直販CD&DLという形態。今回はちゃんと各曲に曲名がついているけど、15分超の楽曲が2つ、23分の楽曲が1つ(!)を含む全6曲72分超えとやはり一筋縄ではいかなそうな予感。そして再生して驚くのは、前作以上にマニアック…というか本格?アンビエントへ。真空パックされた空間に、低周波の無機質な機械音のようなものがひたすら鳴り続け、やがて残響だけが時間をかけてめちゃくちゃゆっくりと増幅されていったり、鼓動のようなリズムが薄っすら刻まれたり、環境音のようなノイズが垂れ流され続けたり…と、そういった音像がずーっと続きます。あとは3曲目の頭でフルートが鳴るけど、他では映画のサンプリングやモールス信号なども含む箇所もあるのだとか。前作も普段の彼の音楽からは想像もつかないものだったけど、徹底的に引き算されたような本作に比べるとまだインスト音楽としての起伏や展開が考え抜かれているような側面もあったなと思えるほど。さざ波が心地よい最終曲はいくらか光を感じますけどね。普段の彼の音楽とのギャップありきで楽しむべき作品か。しかし万人受けしないという前提で制作するのなら、むしろこのアンビエントアルバムこそ別名義でリリースすればいいのにとお節介にも思ってしまいます。

 

Einstürzende Neubauten / Kollaps

Kollaps

Kollaps

Amazon

 ドイツ出身のインダストリアルノイズ/前衛音楽バンドの1stアルバム(1981年)。

 

 インダストリアルミュージックの概念を大きく飛躍させた重要な存在で、紆余曲折を挟みながら現在も活動している伝説的なグループの記念すべき第一作。Blixa Bargeldを中心に結成され、幾度のメンバーチェンジを挟み次なる中心人物となるF.M. Einheitが加入後、メンバー3名編成でのリリース。2ndアルバムからは更なる加入を経て黄金期の5人組となっているので、その隙間に唯一発表されたスタジオアルバムということになります。その内容は強烈の一言。機材が無いから(?)という理由で実際の金属廃材を叩いたり削ったりして生み出されるメタルジャンク音、感情を絞りつくすように垂れ流されるボーカルの歌になりきれていない叫び。彼らの作品の中でも最も原始的で生々しい迫力に溢れています。しかしただの破壊的な衝動だけでなく、自作楽器や独特に生み出した環境音など、幾多の実験を合わせながら新しいスタイルを追求した求道的な精神が感じられ、プログレッシブロックを自称したという逸話も頷けます。ごく個人的な観点で言うと、インダストリアル音楽に今より理解の浅かった時期に初めて聴いたときは、衝撃を受けつつも目が点になったものでした。だけど彼らの影響を受けた音楽をいくつか知った後に改めて聴くと、この作品の強烈さや偉大さに行き着く。そんな "最強の古典" みたいな存在です。