MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Dkay.com / Decaydenz

Decaydenz

Decaydenz

 

 ドイツ出身のインダストリアルバンド・Die Kruppsの中心人物・Jürgen Englerが、1997年のDie Kruppsの(一時的な)解散後に結成したグループの1stアルバム。

 

 長いキャリアと高い評価を誇るこの界隈の代表的存在であるDie Kruppsは、ジャーマンニューウェイブからインダストリアルメタルを経て最後は凶悪なスラッシュメタルと化した変遷を持ちますが、そのバンド後期のイメージとはまるで違う音楽性へ。4つ打ちや煌びやかなシンセ/エレクトロニックを中心に置き、ポップなメロディやソウルフルな女性コーラスが華を添えるゴージャスなシンセポップ/エレポップに変貌を遂げています。メタルギターが消失したわけではないけど、曲によって強弱はあれどあくまで効果的な脇役としての収まり方。収録曲「The Final Show」がDie Krupps時代の名曲「Fatherland」のリメイクなので、そこを聴き比べるとその違いがよく分かります。同時代に流行していたクールなフューチャーポップではなく、あくまで彼ららしい暑苦しさだったり、どこかジャーマンニューウェイブ時代まで先祖返りしたようなセルフパロディっぽい遊びが感じられるけど、インダストリアルメタルをある種極めたと言っていい彼らが、バンドをリセットして打った次の一手としてはとても面白いものになっているかなと。むしろ後期Die Kruppsよりこっちが好きだという人もいそう。興味があれば是非とも。

 

I've / COLLECTIVE

Collective

Collective

 

 北海道に拠点を置き、アニメ/ゲーム系の楽曲を中心に制作するクリエイターチームによるGIRLS COMPILATIONシリーズの第6弾。

 

 まず何よりもタイトル曲「Collective」(KOTOKO)の存在感。空間を切り裂くノイズギターとマシーナリーなプログラミングビート、冷徹に打ち鳴らされるシンセにうねり続けるベース。それらが混然一体となった無機質でハードなトラックの上を、 "ブックレットに表記できない過激な詞" でKOTOKOが不敵に歌う。I've史上最強のインダストリアルナンバーで、唯一のこの書下ろし曲のために作品を手に取っても損はないでしょう。そんな「Collective」をラストに、そしてこれまた強力なインダストリアル曲「Automaton」(島みやえい子)を導入部に配置した並びだけでも垂涎なのに、その中を固める楽曲群も、王道トランスからガールポップまで歌い分けるKOTOKOを中心に、名曲「IMMORAL」によりターニングポイントを迎えたと自身で語る川田まみ、英詞バラードを高い歌唱力で歌い上げるMELL、電波風アイドルソングでアルバムにスパイスを加える詩月カオリらといった黄金期の面々が個性豊かにひしめき合い、完成度はもちろんその他の歌手/楽曲も含めたラインナップのバランスと充実ぶりが見事で、I'veのひとつの完成形と言って差し支えないです。元々2枚組で予定されていて直前に1枚に変更されたそうだけど、それが良い方向に働いて作品を強固なものにしたのかも。半ば謎の存在としながら優れた歌手/楽曲を輩出し、シーンの頂点にまで登りつめたI'veの第1期を締めくくる大名盤。

 

Strapping Young Lad / The New Black

 カナダ出身のマルチミュージシャン/プロデューサー・Devin Townsendを中心としたエクストリームメタルバンドの5thアルバム(2006年)。

 

 タイトルに反して(?)ジャケットの白背景が彼らにしては珍しく鮮烈で、再生するといきなり高速三拍子のヘヴィメタルナンバー「Decimator」で幕を開けるなど、演出少なめですぐにスッと楽曲に入り込める上に、前作のような込み入りまくった曲展開もなく重苦しさのない聴き心地。Devin Townsendソロに近いアプローチをより深く取り入れながら、今作に関しては具体的な過去楽曲のアイデアやフレーズの引用などにも積極的で、全体的にはソロっぽさと初期っぽさが上手い具合に混ざりつつも、SYLのアイデンティティを崩さずにまとめ上げているという、バランス感覚の優れた逸品に仕上がっているかと。それも、異なる要素がめまぐるしく表出するような形ではなく、各々の要素がきっちり融合しながらも楽曲1曲1曲がコンパクトにまとまっておりしっかり聴きやすい。1999年のライブ盤で既に音源化されていた名曲「Far Beyond Metal」を始め、メロディアスな歌が活躍する場面も多いです。過去の名作たちをゆうに超えるような衝撃があるわけではないにしても、そこに肩を並べ新たな指標や基盤を感じさせる充実作とも言えるのだけど、実のところ当時のDevin Townsendはあまりにも濃密だった長年の音楽活動に疲れ、また人気上昇中だったにも関わらずSYLというバンドを継続する気もなかったらしく、今作制作前にバンドの解散は決まっていたとのことで、実際に最終作となってしまいました。

 

PIG / Genuine American Monster

Genuine American Monster

Genuine American Monster

 

 UK出身のRaymond Wattsによるインダストリアルプロジェクトの6thアルバム。

 

 前作に続き、KMFDMの元ギタリスト・Günter Schulzを招き制作。その特徴的なギターリフをガンガンに効かせたクールなインダストリアルメタルあり、サンプリングやエレクトロニックを全力で取り込んだメカニカルなロックあり、初期の彼を思わせるラテン/ビッグバンド風の曲あり、4thアルバム「Sinsation」のカラーを彷彿とさせるアンビエント曲あり、はたまた全日本語詞(!)の変則的バラードあり…と、ここまで(主に「The Swining」以降)の彼が繰り出して来た音楽的な要素や変遷を軽く総ざらいしたかのような性格のアルバムになっています。こうなって来ると確かに一見豪華だけど、しかしそれが逆に一つの作品としてトータルで受け取ったときに、過去の作品群と比べて突出したものを感じさせない要因になっている面も否めないのが少し残念かも。格好いい曲は格好いいけど、全体としては思ったほどではないというか…曲がやや弱いというか地味なのはあるかも。しかし、彼の出自やキャリアを表すような高い音楽性と才能、そしていわゆるアメリカ型インダストリアルに接近しても決してブレなかったオリジナリティを示した一作で、中期以降の彼の音楽が好きならば迷わず聴いて良いかと。ラスト曲「Inside」で14分に渡るアンビエントのエンディングを披露し、もはや「やりきった」のか、ここからしばらくリリースペースも落ちるし。ちなみに本作は1999年に日本のみで発売された後、2002年にUSのMetropolis Recordsより再リリースされています。

 

Marilyn Manson / The High End Of Low

High End of Low

High End of Low

 

 US出身のMarilyn Manson率いるインダストリアルロックバンドの7thアルバム。

 

 かつてMarilyn Mansonが三部作を発表していた頃にバンドに在籍し、右腕として活躍したベーシスト・Twiggy Ramirezが10年振りに復帰したことでも話題となった本作。更にはNine Inch Nailsの元ドラマー・Chris Vrennaをドラム/プログラミング/プロデュースに迎えており、そういった経緯から「往年のサウンド」を期待する声も一部であったのだとか。実際にもシングル曲を中心に勢いを若干取り戻した曲もあれば、それを通り越してよりオールドスクールな領域にまで手を伸ばしたような曲もあったりします。そういう意味では前作より曲のレンジは広がっているけど、根本的に三部作時代の代表曲などとは異なるベクトルだし、全体を通して大きく存在感を放つのはむしろアコースティックかつメランコリックな歌モノで、アレンジそのものも方向性を絞られています。前作の内省的なムードを引き継ぎながら、その上に新たな彼らなりのスタンダードを目指した作品というイメージ。悪くはないけど、スローな曲のテンポ感が似たり寄ったりで間延び気味なのが残念だし、「Irresponsible Hate Anthem」じゃないけどもう少しアンセム的な存在感というか、攻めっ気のある曲があれば良かったなと。