MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Pitchshifter / PSI

Psi

Psi

 

 UK出身のインダストリアルロックバンドの6thアルバム。

 

 前作より約2年振りで、その間にもバンドの創設メンバーでもあったギタリスト・Johnny Carterの脱退~完全離脱、そして前作では空白だったドラムには、後にBullet For My ValentineのメンバーになるJason Bowldが加入するなど、細かいメンバーチェンジの続いた彼ら。新体制で完成した今作は、作風としては平坦なヘヴィロック化をしてしまった前作の延長ではあるけれど、出世作となった前々作「www.pitchshifter.com」(以下:.com)の勢いを取り戻そうとする気概も見られ、それを示すように「.com」のプロデューサーが再び共同プロデュースにクレジットされています。ギターの密度が高まったことや、大小様々なジャングルビートを乱れ打ちしていた「.com」ほどではないにしろ、同程度には複雑なリズムパターンを展開する場面が増えたことで、楽曲がビシっと締まり、スピードとダイナミズムに溢れた音像が戻ったのは非常に嬉しいポイント。歌メロも前作以上に意識され、そこを際立たせる構成/サンプリングも職人芸とも言える域で、それが如実に表れた先行シングル曲や後半の楽曲はまさに出色。一流どころのUSインダストリアル系ヘヴィロックに引けを取らず、一方でUKデジロック風の持ち味も失わず上手く折衷した上で完成度も高めてきたのは見事という外ないです。しかしこの後、バンドは活動を休止。これまでに何度か復活の噂が立ったり、自主レーベル・PSI Recordsを立ち上げ単発のリリースがあったものの、新作に関しては制作への意欲的な言及もありつつも未だに完成には至っていない模様。個人的にも興味津々だけど、本当に出るのかな?

 

SCHWEIN / SCHWEINSTEIN

Schweinstein

Schweinstein

 

 BUCK-TICK櫻井敦司今井寿、PIGのRaymond Watts、KMFDMのSascha Konietzkoによるプロジェクトバンドのアルバム。

  

 PIGことRaymond WattsはKMFDMの初期メンバーでもあるし、90年代中盤~後半ごろにはそれぞれお互いの音源制作にちょっとずつ関わることもあったりと、何かと縁のあったインダストリアルな3アーティストの中心メンバーにより結成されたプロジェクト。日・英・独の才能が集結ということでそりゃあもう夢が膨らむわけですよ。しかし、出来上がったものはその実恐ろしく地味!センス良く組み込まれるメタリックなギターリフ、小気味よいリズムトラック、巧みなエレクトロ/ノイズを駆使した楽曲はキャリアに根差した流石の安定感があるのだけど、既視感があるというか持ち寄った各々の特徴を掴んでいる分だけ想像以上の驚きもなく、根底にあると思われる官能・本能・醜さのようなテーマのせいか、どうもねっとりしたテンポ感や暗めのムードが先立つ。ボーカルにしても、Raymond Wattsはいつもの潰れたような唸り声だし、櫻井敦司も時折表情を変えつつも、基本はウィスパー~ローボイスで応戦するので、楽曲の華の無さに拍車を掛ける。つまり、遅い・暗い・低いと見事に三拍子揃っているのである。うーむ。決して出来が悪いわけではないのだけど、ちょっと肩透かし。120点を期待したら75点だった、みたいな。こういう楽曲がスパイス程度に挟まれるなら逆にニヤニヤするんだろうけど、まるっと1枚だとキツイ。勝手なモンですね。とは言え、この手のジャンル又は構成メンバーが好きなら一度は聴いておくべきアルバムだとは思います。ボーナストラックの「My Sanctuary」(PIGの代表曲のSCHWEIN版、当時車のCMで流れたとか)は、櫻井敦司の声が重なるサビが鳥肌モノ。あとはBUCK-TICKの中でも「97BT99」が大好きだという(アレな)人(管理人含む)にも(オイ)お勧め!色んな意味で、もう二度とないでしょうこんなの。  

 

MELL / Entrust ~the name of MELL~

Entrust ~the name of MELL~

Entrust ~the name of MELL~

 

 I've専属ボーカリストの編集盤。

 

 本作をもってI'veを卒業し歌手活動の休止となったため、初のベストアルバムにして同時にラストアルバムにもなった作品。大きく分けると「メジャー以降のシングル/タイアップ曲の多く」「インディーズ時代の代表曲や再テイク」「新曲2曲などの初CD化曲」で構成。既存曲の総括としてみるならアルバム曲からの選出が非常に少ないといった片手落ち感はあるけど、体調不良などもあり恐らくは想定外の休止となってしまった彼女の「3枚目のアルバム」としての価値も意識したようなラインナップは魅力十分。鮮烈なメジャーデビューを飾った「Red fraction」に始まり、大海のような包容力とスケールを感じさせる森岡賢作曲「MY PRECIOUS」を中心に配し、集大成的な「In The Name Of Love」に繋がっていくなど、曲順もアルバムの流れも実によく考えられているし、初CD化の楽曲も彼女の得意とするスタイルが散りばめられた期待通りのもので、その濃密な活動の成果が込められた充実の内容。彼女の発言からは「Red fraction」のような攻撃的なイメージ「だけ」が独り歩きすることを望まなかった節があるけど、事実、優しく包み込むような母性的な愛情や、凛とした歌唱の中で一瞬覗かせる可愛らしさなど色んな表情を見せてくれる人であり、もちろんそれは本作でも満遍なく感じ取ることができます。でも、インダストリアルロック同然のアングラ/ハードな英詞曲を堂々と歌いこなすあの衝撃も決して薄れるものではなく、改めて素晴らしい歌手だったとしみじみ。本作のキャッチコピーになぞらえて言えば、彼女の"堂々たる完結"のために、最後であり最良の一作を目指したまさに珠玉の作品。「インダストリアル・アニソン」よ永遠なれ!

 

Skinny Puppy / The Process

Process

Process

 

 カナダ出身のインダストリアル/EBMユニットの8thアルバム。

 

 1995年に(一度)解散した彼らの(当時の)最終作。古巣のNettwerkからレーベルを移り、1993年から1995年にかけて制作が行われるも、様々な事情によって難航。一度は中止、更にはグループ存続の危機に陥る中、メンバーのDwayne Goettelがオーバードーズで逝去。それが大きな引き金になり解散した後、彼への追悼作品として完成されリリースに至るという経緯がある作品です。特徴的なのは何と言っても強力なメタルギター/ギターノイズの導入。近い謳い文句だったかつての作品「Rabies」を大幅に凌ぐほどに攻撃的なギターを主力に置いて躍動的にテンポを刻むサウンドは、瞬間的にはKMFDMを彷彿とさせるほどにスタイリッシュで驚き。しかし電子ノイズの絶妙な活躍や、覇気や感情が喪失したかの様な独特なボーカルまで含めると、やはりどこか異質めいた魅力は健在だと認識させられるし、シンセやピアノの音色をシンプルに生かしたスローナンバーには、以前には無かったレベルで「歌」を感じさせ、それこそどこか死を悼むような悲哀さや物悲しさが赤裸々に表出しているかのようで、Skinny Puppyらしいケミカル&グロテスクな雰囲気はかなり薄れている一方でも、まるで流線形のような端正なフォルムで、ステロタイプなインダストリアルメタルとは一枚も二枚も上手の存在感と完成度を証明しています。これぞ流線形ゾンビ。何だそれ。彼らの代表作としてよく挙がるもの・相応しいものとはまた異なるというのは重々承知しているけど、例え邪道と言われようと、彼らの作品の中では個人的にトップクラスで好きな作品だったりします。これが格好良くない筈がなく!

 

 

SCHAFT / SWITCHBLADE

SWITCHBLADE

SWITCHBLADE

 

 BUCK-TICK今井寿SOFT BALLET藤井麻輝を中心としたインダストリアルユニットの1stアルバム。

 

 1991年に結成され、知る人ぞ知るオムニバス盤「DANCE 2 NOISE 001」に参加した後、1994年に本格始動しリリースされたオリジナルアルバム。上記2人を核としつつも、Raymond Watts (PIG)を主要メンバーに迎えた体制で、更に楽曲ごとに制作に関わった人物は国内外問わず多岐に渡り、プレイヤーとしてCRA¥、MOTOKATSU (THE MAD CAPSULE MARKETS)、諸田コウ (DOOM)、DJ PEAH (M-AGE)、Marianne Faithfullのカバー「Broken English」のボーカルにJulianne Regan (All About Eve)、「inFORMation」の共同作業にJonny Stephens (Meat Beat Manifesto)、ミキサーにはCoil、Autechre、 Keith Le Blanc (Tackhead)など、挙げるときりがない程の錚々たる面々。楽曲もそれぞれ方向性はバラバラで、アンビエント、ダブ、エレクトロニカ、インダストリアルメタル、エスノ、アブストラクトヒップホップといった要素がごった煮の闇鍋状態。それでもやはりノイズを帯びた音響的なこだわりなどは全編に見られ、実験/前衛性の高さという点では一貫しています。Raymond Wattsが主導した楽曲はぶっちゃけほぼPIG(もしくはWiseblood風)なのだけど、トリッピーな楽曲が並ぶ中でそのアグレッションはいいアクセントにも。歌を聴かせる楽曲は皆無に近いけど、難解ながらも耳を離せない中毒性や、聴く度に新たな発見があるかのような深さは、まるで小宇宙のよう(変な例え)で、時代を選ばないというか、後追いで聴いても、それこそ二十数年経った今でも(今でこそ)凄みを感じずにいられないですね。ジャンルも洋/邦の壁も超えまくった、色んな意味で奇跡的とも言える一枚。CDに入る限界までやり尽くしたような78分超のボリュームは、聴く側にも気合いを要求されるところもあるけど、参加ミュージシャンに1つでも興味を引かれたら、見つけ次第即買いレベルの逸品でしょう。