MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

KMFDM "Opium"

Opium

Opium

  • Metropolis Records
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 ドイツ出身のインダストリアルバンドの幻のデビュー作(1984年/2002年)。

 

 当時カセットテープで密かに流通したものらしく、それを再編集/リマスターし2002年に(その後2013年に再度)CD化したアイテムで、12thアルバム「WWIII」の国内盤には特典として付属していました。お得!彼らはインダストリアルメタル/ダンスの代名詞的存在に上り詰め一時代を築いたけど、実は意外にも "出がThrobbing Gristle" のようで、最初期はアートパフォーマンス集団として実験的な音楽やライブをやっていたようです。そんな出自が最も反映された本作は、サンプリングや雑音に近い電子的な残響音などが跋扈するなかなかマニアックな世界。普通に歌われる曲は少ないけど、全体的にダブ/レゲエ的な要素が早くも散見される点は後のKMFDM(特に「UAIOE」)に繋がるものがあるし、PIGとしてデビューする前のRaymond Wattsがボーカルを執った楽曲はまるでPIGの原型。他にもまんまDAFなハンマービート曲、いかにもThrobbing Gristleな不気味なノイズ曲などもあり、総体としては結構カオス。音楽的にもだけど、バンドの進む道がいかにも模索中という部分でもまさに実験的というか。それ故に後に確立していく音楽性の面影も掴みどころもないけど、一部のトラックや音質の調整の甲斐もあって、個人的には今聴いてもグッとくるものがある一枚です。興味深さしかない…!

 

harshrealm / [a beautiful game/prologue for films]

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 FINNを中心としたエレクトロニック/インダストリアルプロジェクトのUSBシングル(2011年)。

 

 未発表の新曲「a beautiful game」と、映画へ提供したサウンドトラックの2種をパッケージしたUSBメモリ限定作品。前者は「インダストリアル回帰」を謳った楽曲で、2009年にはライブで披露されていたらしく、その頃──ダンス/エレクトロニック系へ移行する前の作風の延長を感じさせます。等間隔で鳴り響く前奏/後奏の金属音や、複雑なリズムパターン、珍しくゴリゴリに迫りくるヘヴィなギターリフの応酬がインパクト大で、なるほどライブ感に溢れた過去最高にアグレッシブな楽曲。もちろんテクノロジーの魅せ場も大小問わず全編に存在し、その均衡のとれたサウンドの完成度やTim Sköldを思わせるさりげなくもメランコリックな展開と歌メロは、さながらMDFMK(KMFDMではなく)のようで文句なしに格好いい。個人的には彼らの中でも1、2を争うほど好きな曲だし、日本のインダストリアルロックとして見ても名曲に指定したい。しかし他のCDへの収録や配信は一切行われておらず、何本限定生産か知らないけど現在入手不可能のこのUSBでしか聴けないという。このまま存在が忘れられてしまうのは非常に惜しい一曲なのであります(2015年には現体制によるリメイク版が配信されたけど、原曲の荒々しさやバンド感は消失)。「prologue for films」の方はピアノの独奏の全16曲。こちらは特に何てことはないけど(えっ)、余韻を大切にした物静かなサウンドが心地よいです。

 

 

島みやえい子 / E.P.S -Eiko PRIMARY SELECTION-

E.P.S -Eiko PRIMARY SELECTION

E.P.S -Eiko PRIMARY SELECTION

 

 I've専属(当時)ボーカリスト/シンガーソングライターの編集盤。

 

 初(そして唯一)のベストアルバム。甲状腺癌を告白した翌年にはめでたく完治したものの、本作と合わせてI'veからの卒業も発表されたので、彼女のI've在籍時代を総括するためのラストアルバムといったところ。そうは言ってもソロ名義・PCゲーム提供曲ともに名曲の多い彼女を1枚で総括するのはなかなか難しい。本作ではメジャーのシングルA面曲(全てが「ひぐらしのなく頃に」関連タイアップ曲)を優先的に選出し、残りの半分強をソロ名義(PC曲・書き下ろし新曲含む)に割り当てたような構成となっています。アルバム未収録だった後期のシングル曲が収録されたのは嬉しいし、シングル曲は総じてI've作家が手掛けたインダストリアル風ナンバーで、川田まみMELLらのアッパーなロックとはまた違ったダークさ・おどろおどろしさが前面に出た楽曲群が一気に聴けるのは非常に魅力的。ただ、それ以外のソロ(主にシンガーソングライターとしての)曲とは作風に大きな隔たりがあり、選曲もどうしたって物足りなさは出るので、彼女の振れ幅というよりは「二つの顔」を楽しむ作品と捉えると良いかも。しかしどちらにも一貫しているのは、その表現力と懐の深さ。一口にアニソンだI'veだと言っても、ここまで自己の世界を確立したアーティストというのもそうそういないと改めて思わされます。それだけにI've卒業は残念だけど、歌手活動を引退したわけではないし、「I'veとの関係はこれからも変わらない」との言葉通りコラボレーションもたまに行っているようで一安心。 

 

Scandroid / Scandroid

Scandroid

Scandroid

 

 Celldweller等で活躍するUS出身のKlaytonによるシンセウェイブプロジェクトの1stアルバム。

 

 同じFiXTのアーティスト・Varienとの2人組として始まったけど、初アルバムである本作リリース時にはKlayton一人のプロジェクトとなったScandroid。発足当初はトレイラーなどを段階的に公開し、仕組まれた謎かけを解くことで新たな情報が得られたりというプロモーションが行われたようです。Scandroidのテーマはズバリ「Neo-Tokyo」で、ジャケットの妖しいネオン街のビル群に似合いそうなレトロフューチャーサウンド。キラキラしたシンセやリバーブがかった単調なドラムなど、80年代のシンセ/エレクトロの雰囲気を忠実に、かつ現代的に表現。こういった80年代の文化や音楽を素材に再解釈する動向はSynthwaveやOutrunと呼ばれ一部で流行している模様。カセットテープでのリリースまでしちゃうとか。しかしこのKlaytonの場合は、Tears For Fearsというニューウェイブグループの「Shout」のカバーが示す通り(昔からずっとやりたかった事らしい)、彼の趣味性の表れと同時にルーツへの多大なリスペクトが見て取れます。他の自らのプロジェクトと相互間コラボもしている通り(本作中の「Pro-bots & Robophobes (feat. Circle Of Dust)」はMinistryの「Just Like You」みたいな強烈なリズムが鬼格好いい)表現のベクトルが異なるだけというか、華やかなメロディなど共通点も多く、彼のファンなら違和感なく聴けそう。曲数の多さはちょっとアレですが。

   

girugamesh / LIVE BEST

LIVE BEST

 4人組ロックバンドの編集盤(2014年)。

 

 結成10周年を記念したベストアルバム。タイトルだけ見れば勘違いしそうだけど、ライブテイク集ではなくれっきとしたスタジオ音源のベスト盤。ライブのセットリストを意識した選曲がその由来であり、同時にバンドをライブで叩き上げてきた自負も感じられるもの。この着想は彼らに非常に適していて、最初期から近々の迷作まできちんと公平に、かつ代表作を含む攻めの楽曲やライブでのキラーチューンに絞って選曲する思い切りの良さにより、ヴィジュアル系ラウド→ミクスチャーロック→J-Pop→メタルコアと忙しなかった音楽的変遷を飛び越えた "girugameshらしさ" を違和感なく刻むことに成功。しかもバンドの頭脳であるドラマー・Яyoがバンドの再出発作「MONSTER」に続きエンジニアリングを担当して音を最新の水準に引き上げているし、かつ原曲の魅力は一切曇らせていないという絶妙な強化っぷりが素晴らしい。形式的な選曲やおざなりな制作では決して作れない、オールドファンも納得、新規ファンも安心の、まさに彼らのベスト・アクトを体感できる一枚。生まれ変わったような「MONSTER」以前の作品も興味はあるけど数が多すぎて…みたいな人も、とりあえずこれ一枚押さえればOK。元々彼らは大好きでブログ関係なく聴いていたのでインダストリアル・メタルのWikipediaに名前を見つけた時は驚いたけど、本作を聴くとそういうジャンルどうこう以前に(えっ)、ただただ良いバンドだなと改めて思うのでした。