MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

I've / I've MANIA Tracks Vol.III

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  北海道に拠点を置き、アニメ/ゲーム系の楽曲を中心に制作するクリエイターチームによる編集盤(2010年)。

 

 コミックマーケット79で限定販売された、通常のガールズコンピには収録不可能・または入手困難な音源がまとめられたレアコンピの第3弾。そしてその辺の背景を知らない人には、これまで通り一種の新作コンピ感覚でも聴ける一枚。特に本作においては、Outer名義の楽曲やダーク系の楽曲などが無い上に、開けた感じのピュアなシンセポップが多めなこともあって、なんだか往年のI'veサウンドのコンピをそのまま聴いているようでもあり。「I」「II」のような雑多さはないけど、このまとまり具合も悪くないかな。そんな中個人的に特に惹かれたのは「loose」。アシッド?ラウンジ?風のバラードでI'veには珍しくオトナな雰囲気だし、それをクールに歌いこなすKOTOKOの歌もお見事。「恋のマグネット」(MOMO)も渋谷系っぽい軽快さが新鮮!この辺の「ちょっとオシャレな生バンド風」のI'veももう少し聴いてみたいと思わせるものがあります。もう1つの注目点は、一部ではKOTOKOの変名ではないかとの噂もあるらしい謎の歌手・宮崎麻芽が歌う唯一の楽曲「satirize」の収録。言われてみるとKOTOKOが癖をつけて歌っているようにも聴こえなくもないけど…果たして。このシリーズは本作をもって終了したけど、本来なら耳にできなかった筈の楽曲をこうして聴けただけでも、とても有り難いことだったと思います。

 

Foetus 『Nail』

Nail

Nail

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 オーストラリア出身のJG Thirlwellによるアヴァンギャルド/インダストリアルプロジェクトの4thアルバム(1985年)。

 

 日本語がドーンと縦断する驚きのジャケット。どうやら彼は親日家らしく、今後もアートワークにこういった日本語がよく顔を出すようになります。そんな本作は、当時リリースごとに微妙に使い分けていたアーティストの名義が前作と同じ…だからという訳でもないだろうけど、前作『Hole』同様にインダストリアルともニューウェイブともつかない──あるいは混在した──アイデアやバックボーンを本能的に放出するサウンドが圧巻。大きく違う点としては、彼の音楽的な主要素の一つとなるクラシックの要素が大幅に導入されたことによって、ノイズ/ジャンクなサウンドオーケストレーションが乗っかるというスタイルが逆説的に暴力的ですらあったり、 "Pigdom Come" という架空の王国をテーマにし、インスト楽曲を含めた構造、同一の戦慄的なフレーズを用いるコンセプチュアルな演出など映画音楽的な持ち味も昇華されています。また、本作中でとあるクラシック組曲のフレーズが挿入される箇所があり、それを後々PIG (Raymond Watts)がオマージュで再現したことも界隈ではお馴染み。そういったサウンド面や「釘」「豚」などのワード/スラング等、後のインダストリアルロック世代へ与えた影響の大きさが特に汲み取れる一枚でもあり、名作と名高い前作『Hole』と双璧をなす傑作とされるのも頷けます。

 

D'espairsRay / IMMORTAL

IMMORTAL

IMMORTAL

 

 4人組ヴィジュアル系ロックバンドの編集盤。

 

 バンドの結成10周年を記念したインディーズベストアルバム。メジャー移籍直後のリリースなので、概ねリリース時点でのバンドベストと言っても差し支えないです。とはいえ、選曲対象にあるフルアルバムは2枚のみ、バンドとしてはまだこれからという時期にあったし、その選曲もメンバー自身が担当した割には聴くべきところを押さえきれてない感も。その上で汎ヴィジュアル系の初期~カジュアル化した後をざっと触りだけ詰めたようで、なんだかベスト盤というよりはダイジェスト盤と呼ぶ方がしっくり来そうな駆け足具合。推すべきところがブレており、10周年という節目にこだわり過ぎたかなと。しっかし、1曲目「檻の中で見る夢」と最終曲「HORIZON」を比べると、そのあまりの落差にクラクラしてきます。この手のバンドには特にありがちな問題でもあるけど、自分たちらしさを保ちながら新しい挑戦を続けていくというのは難しいんだろうな…とも改めて思わされました。余談ですが、彼らについては元々好きで聴いていたけど、ある時インダストリアル・メタルのWikipediaに名前があるのを知り、それならばと当ブログで取り上げてみました。ただ、そういうサウンドを期待するにしても、またはバンド自体の魅力を説明するにしても、1stアルバムを通して聴く方がずっと良いと個人的には思います。

 

MELL / MIRAGE

MIRAGE 〈初回限定盤〉

MIRAGE 〈初回限定盤〉

 

 I've専属ボーカリストの2ndアルバム。

 

 前作とは異なるテーマを念頭に制作に臨んだというだけあって、全体を通した印象はまるで違います。今回インディーズ時代のレパートリーからは彼女を代表する名曲トランス「砂漠の雪」が収録され、それを真ん中に置きつつ、そのイメージに沿った比較的メロディの立つ楽曲が多め。それもシンセポップ/エレクトロ/ダンス系の歌モノからハードトランス/インダストリアルロックの域にある硬質な楽曲まで、4つ打ちを基調としながらもなかなかに多彩だし、発音の達者な全英詞曲もいつも通りお手のもの。また、彼女のライブサポート等で縁のあった元SOFT BALLET森岡賢も楽曲を3曲提供。タイプは違えどそのどれもがSOFT BALLETが透けて見えるような包容力を感じさせるもので、アルバムに更なる幅を与えると同時に、慈愛に溢れるような本作のムードをより確かなものにしています。大上段に構えたダークな前作にはあまり無かった一面だけど、それは彼女が昔から持ち合わせていた表情でもあり、それがI'veの粋を集めたようなサウンドと彼女の成長が理想的に噛み合うことで、一段上に上がった間口の広さと完成度で実現したのかなと。まさに渾身の一枚。興味のある方はアニソンという色眼鏡を外して、是非。ちなみに余談ですが、この本作と、川田まみ「LINKAGE」、KOTOKOイプシロンの方舟」の3枚はおよそ1年間の間に世に出ているのだけど、メジャーシーンにおけるI'veの三種の神器というか、当時の彼らの強力な勢いを象徴する好盤たちだと勝手に思っています。

 

Conjure One / Conjure One

Conjure One

Conjure One

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 Front Line Assemblyなどで活躍するプロデューサー・Rhys Fulberによるエレクトロニカ/アンビエントプロジェクトの1stアルバム(2002年)。

 

 Rhys FulberがFront Line AssemblyやDeleriumを離脱した1997年頃に彼のソロプロジェクトとして立ち上がったところから始まり、2003年にそれぞれのユニットに復帰してから現在に至るまでも活動は継続しています。その内容は、複数の女性ボーカリストをゲストに迎えた上質なトリップホップ/アンビエントポップという、彼が脱退する直前のDeleriumをそのまま踏襲するような体制と音楽性。完成度含め雰囲気がかなり近いので、パッと聴きだとあまり違いを感じられないほど。しかしよくよく聴くと、こちらの方がよりエスニック方面に傾倒している印象を受けます。伸びやかなシンセ/ストリングスから紡がれる神秘的なスケール、ピアノ/民族楽器/アラビア語のコーラスの映えるアレンジなどが非常に洗練されており、それも必要以上に長尺/複雑にならない範囲できっちりまとめられ、全体を通して味わい深く、かつ軽やかに聴き入ることができます。本当にジャケットのように異国──中東あたりの乾いた情景が浮かぶよう。当然というか、牽引力の高いボーカルを大きくフィーチャーした楽曲も素晴らしく、特に本作随一のキラーチューン「Manic Star」やそこに至るまでの流れは格別だし、また「Manic Star」のリプライズ曲で余韻を残しながら締めくくられる終わり方も痺れます。単純に「ポップになった」の一言で済ませるのはちょっと違うかもだけど、その隙の無さゆえにやや重たくも感じるDeleriumと比較すると、個人的にはこちらの方が馴染みやすかったです。