MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Der Eisenrost / ARMORED WEAPON

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  かつてZEITLICH VERGELTERで活躍した映画音楽家/メタルパーカッショニスト・石川忠を中心としたメタルパーカッションユニットのアルバム。

 

 映画監督・塚本晋也の映画「鉄男」等のサウンドトラックを担当した石川忠を中心に、塚本監督の助監督だった川原伸一、EBMユニット・C.H.C. Systemの関伸一らが加わり、「鉄男」の世界観をライブで再現することを目的に結成されたというユニット。2作のアルバムを発表しており、こちらは「LIVE DOCUMENTS '93-'94」というサブタイトルにもある通り、主にライブ音源で構成されています。初期のTest Dept.を彷彿とさせる、正しく金属音をフィーチャーしたザ・インダストリアルなサウンドは、石川忠名義のサントラ音楽に比べるとかなりプリミティブで刺激的。唸りを上げるボーカル、荒々しい演奏に覆い被さるドリル音、耳に刺さるようなノイズと化したメタルパーカッションの激しい連打やユニゾンなど、どれもおどろおどろしく生々しい迫力。メタルパーカッションを叩く強弱すらも手に取るように聴こえてライブの臨場感も抜群だし、狂気的であろう画も浮かび上がるかのよう。終盤の2曲はスタジオ録音の楽曲で、インダストリアルノイズメタルとでも言えそうな鋭利な音の洪水が圧巻。本ユニット以外でも様々な音楽活動で多大な功績を残した石川忠は、2018年に向けて新たな音楽活動の準備を進めていたとのことだけど、同時に闘病で入退院を繰り返す生活だったらしく、残念ながら2017年末にお亡くなりになったそうです。ご冥福をお祈りします。

  

KOTOKO / イプシロンの方舟

イプシロンの方舟 <通常盤>

イプシロンの方舟 <通常盤>

 

 I've専属(当時)ボーカリスト/シンガーソングライターの4thアルバム。

 

 タイトルは方舟と書いて「ふね」と読みます。同年にメジャーデビュー5周年を迎え、その時これまで通りのI've内での活動に加え、I've外では小文字の「kotoko」名義としても活動する方針を発表。それと関わりがあるかは分からないけど、本作ではそれまで(ソロ名義では)大部分を自身で担っていた作曲からも距離を置き、ほぼ作詞/歌唱に専念。その結果、4作目にして(1曲を除き)I've作家陣の作編曲/プロデュースによる「I've特化アルバム」に。ただ、後に彼女はI'veから独立する道を選ぶので、名義を分けた意義もうやむやになってしまい、同時にI've在籍時の最後のオリジナルアルバムにもなりました。作風としても、タイトルからは想像がつかないダークさを纏った「リアル鬼ごっこ」(同名の映画の主題歌)や、浮遊感漂うトランス、またそれに準じたダンストラックの存在感が強く、KOTOKOの表現力がI'veの定番とも言える型で存分に生かされています。ラストにはManic Street Preachersのカバーまでも。やや優等生的にまとめられ過ぎている感もあるし、他の収録が見送られたシングル曲を差し置いて入った「ハヤテのごとく!」が少し浮いていなくもないけど、程よいアニソンロック/ダンスポップが楽しめるという点において、彼女のアルバムの中では最も一枚を通した一貫性や安定感があると思います。

 

harshrealm / [asile/litanie]

[asile/litanie]

[asile/litanie]

 

 2人組エレクトロニック/インダストリアルロックバンドのミニアルバム。

 

 当時、既にタイトルも明かされ制作中だった2ndフルアルバムへの先行EPという形で発表された作品。EPと言っても全7曲のうち2曲はインタールード、うち2曲は海外のミュージシャンによるボーナスリミックスで、実質的な新曲は3曲。だけどその3曲ともが素晴らしい。表立った主張的なシンセとダイナミックなギターリフ、小さなギミックも駆使したメリハリと細工の効いた音使いで、よりインパクトのあるエレクトロニックロックを展開する「eNvy」「LiE」(名曲!)、どこかPIGの「Cry Baby」を思い出す、日本語詞も飛び出すバラード「litanie」。陰鬱なムードを強調することで求心力を高めていた1stに比べると、新たなアプローチがそのまま作品に流れる新鮮な空気に繋がっているし、それまでの彼らの音楽が好きな人の期待にもしっかり応える内容かと。結局、後に2ndアルバムの制作が白紙になり、結果として単発のEPになってしまったんだけど、練られた構成も手伝い、フルサイズのアルバムをそのままミニサイズにしたような感触もあり、一つのパッケージとして十分に魅力的な作品になっていると思います。

Skold / Anomie

Anomie

Anomie

  • アーティスト:Skold
  • Metropolis
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 スウェーデン出身のインダストリアルロックシーンのマルチミュージシャン/プロデューサー・Tim Skoldによるソロプロジェクトの2ndアルバム(2011年)。

 

 1stアルバム以降、KMFDMやMarilyn Mansonへの加入など多方面で活躍していたこともあり、ソロとしては何と約15年ぶりとなった2作目。その間にも新作の制作を進めていた時期もあったけど、楽曲の流出により中止になり、全く別の新作に取りかかるまでの時間を要したのもありこれほどの期間が空いたのだとか。どういう形であれ待ち望んでいた人にとっては嬉しさ以上に驚きもあったことかと(経験談)。しかしその間もインダストリアルロック界隈のトップクラスのバンドで中心を担う活躍を続けていたため、放たれるサウンドは熟練そのものと言ってもいい仕事ぶり。Marilyn Mansonのお株を奪うようなシャッフルナンバーやスラッシーなギターリフとブラストビートの直球インダストリアルメタル、アグロテックやミニマルなエレクトロダンスなど楽曲のタイプはやはり多彩だけど、全体的には彼のMarilyn Mansonでの最後のプロデュース作「Eat Me, Drink Me」を彷彿とさせるブルージーでアンニュイなギターアンサンブル、またそれに伴うバンド感の表出というのが印象的で、1作目と比較するとよりゴシック/オルタナティブロック的な質感を強め、一つトーンを落とした陰鬱さや渋さのような魅力が押し出される格好になっています。スローな曲が多めなところは好みが分かれそうだけど、それでも積年のキャリアとアイデンティティが炸裂した、新たな名刺代わりに相応しい傑作と言えます。