折戸伸治 / circle of fifth

circle of fifth

circle of fifth

 

 Key Sounds Labelの作曲家による初のパーソナルフルアルバム。

 

 一世を風靡した美少女ゲームブランド・Keyに所属する作曲家・折戸伸治が、ゲーム/アニメ作品のテーマ曲を中心に、14年に渡る活動の中で手掛けた数多の楽曲から選出した2枚組コンピレーション。Keyの設立メンバーでもあり、「Kanon」「CLANNAD」等の大ヒット作品で一時代を築いたというこの界隈では名うての作家なだけあって、その軌跡が一通りまとめられた本作は、まさに名曲の宝庫と言えます。内容は様々な歌手への提供曲が集められており、I'veのKOTOKO川田まみLiaを筆頭としたKey所属歌手、更には当時新人だったやなぎなぎ・Rayなど豪華な面々が並び、シンセ/ピアノを重用しながらも曲調も様々でバラエティ豊か。2000年代中盤以前の比較的古い曲がリアレンジされているというのも大きなポイントで、原曲の良さや雰囲気を損なわない良質なアップデートにより、今の時代なりの音としてより違和感なく、また原曲を愛したファンにも新鮮に響くという嬉しさも。Disc2の中盤以降は、本作が歌手デビューとなった北沢綾香の楽曲で固められており、書き下ろし曲やゲームBGMのボーカル化曲などここでしか聴けない曲も多く要注目。一曲一曲細かく言及するときりがないのだけど、根底にある普遍的な魅力というのは年代・作品・歌手問わず一貫しており、その要因は作品と寄り添いながらも音楽のみで十分な牽引力を生み出し、新風を吹き込もうとする先駆者としての矜持が存在するからではないかと。なので、特に名曲と名高い「鳥の詩」を筆頭に、今もなお語り継がれるのでしょう。I'veやKeyのファンは勿論、アニソン文化が好きなら広くお勧めできる一枚。 

 

島みやえい子 / EIKO SHIMAMIYA PRODUCE 5TEARS

5TEARS

5TEARS

 

 I've出身シンガーソングライターによる企画盤(2011年)。

 

 同年6月にI'veを卒業した島みやえい子が、その約半年後にコミックマーケット81にて発売したミニアルバム(後に一般販売)。内容は、島みやえい子を中心に複数人のゲストボーカルや作家が集まり、主に島みやえい子が制作した楽曲をそれぞれで歌い持ち寄ったコンピレーション盤。歌い手はKOTOKOを筆頭に、「Angel Beats!」の劇中歌も担当したKey所属のkarutaや、島みやえい子の教え子らが参加。編曲作家はI'veの中坪淳彦や井内舞子、また北海道のレーベルの代表や札幌出身のロックバンド・sleepy.abの山内憲介らが参加し、故郷である北海道色も意識されています。1曲目「JUPITER ~2012~ K-Style」(KOTOKO)こそ、同名の有名な組曲(の一曲)の初期I've風ダンスカバーで驚かされるけど、他の曲は概ねかつてのシンガーソングライター・島みやえい子の世界を縮小再生産したようなもの。それこそ「ひぐらしのなく頃に」の系譜を少し(本当に少しだけ)思わせるような曲もあれば、木琴やオルガンやハーモニカで主構成された穏やかな曲も。ただ、島みやえい子がボーカルを執る曲の圧倒的な存在感を前にすると、正直な所やはり本人に全編歌ってほしかったという感想がまず出てきます。中には当時の当人の境遇と親和性の高そうな曲もあるので…。決して悪くはないしこれはこれで楽しめるのだけど、育成や顔見せも兼ねたような作品ゆえか、良くも悪くも小さくまとまり過ぎた小品というか。コストか納期か理由は不明だけど、1ミリも売る気のないジャケットが逆に清々しい。

  

コミックマーケット96参加のお知らせ

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 ※エイプリルフールネタです

 次の夏コミ(C96)にて、インダストリアル音楽に関する同人誌を、再び有志の方々と共同で出すことになりました。

 

 この本は、「いんなーとりっぷブログ」の鉄屑さんの呼びかけにより集まった総勢25名の(広義の)インダストリアル音楽に造詣の深いブロガー/ツイッタラーさん達が、それぞれ得意とする分野について執筆した原稿を持ち寄って、それを一冊にまとめたオムニバス本の第3弾になります。

 

詳しい内容は↓をクリックしてご覧いただけます。 

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Turmion Kätilöt / U.S.C.H!

U.s.c.h!

U.s.c.h!

 

 フィンランド出身のインダストリアルメタルバンドの3rdアルバム(2008年)。

 

 タイトルは「Ultimate Synthetic Corrosion Helter-Skelter」の略であり、頭文字を続けて読むとスウェーデン語で「おえっ」「ぐふっ」などの意味も持つようです。いきなり断言してしまうけど、これは名作!音楽性は前作のインダストリアルダンス/メタルを推し進めたものだけど、生命線とも言える"勢い"が圧倒的に増していて、ところどころで譜割りを細かく刻むギターリフの連打、速弾きを含むド派手なギターソロといった強化にまず耳を奪われるし、ダンス/シャッフルビートを放つリズムトラックのスピード感や重さも据え置きかそれ以上で、その迫力とスピード感はまるで銃火器を連射するようなアーミーインダストリアルの域。当然シンセも対等に活躍するし、掛け声にも似た女性コーラスも健在だしで、激しくも賑やかという特徴もより明瞭に。方向性を変えたりするよりもまず自分たちの強みを真っ直ぐ伸ばして来たという印象だし、概してちゃんとポップに聴こえるバランスも含め、トップクラスのバンドにも引けを取らない一級品のクオリティにまで仕上がったのではないかと。まるで盆と正月ならぬ「RammsteinとKMFDMが一緒に来たような」アルバム。全10曲30分強なので、単調に感じる前にスパっと聴き終わるのもGOOD。ジャイアニズム宣言(仮)(かつてのCDレビューサイト、管理人:TCRさん)さん経由で手に取って度肝を抜かれたのが懐かしい。変わったメンバーの風貌や二つ名設定とは裏腹に、ストレートにインダスメタラーのツボを鬼突きする作品だと思います。

 

トモコDEATH / DEATH TOROIKA

DEATH TOROIKA

DEATH TOROIKA

 

 2人組デジタルハードコアユニットの3rdアルバム。

 

 なんだか気味が悪くて呪われそうなジャケットがめっちゃ怖い。民族音楽とデジタルハードコアの融合というコンセプトを貫いている彼らの3作目は、ロシア民謡をフィーチャーした作品とのこと。タイトルもトロイカから来てるのでしょう。個人的にロシア民謡と聞くと、コロブチカとか、そうでなくてももっと土着的で、物悲しいメロディで、寒々しい大地を喚起させるような楽曲を連想するのだけど、本作からはそういう匂いはさほど感じません。いくつかの曲はロシア民謡のカバーのようなので間違いなく本国由来のものなんだろうけど、音階にそれっぽさを感じる程度で、特に前半はリズム主体のデジタルハードコアやダブに落とし込まれすぎて、色を失っているのがちょっと物足りないかなと。3作目ともなると、トモコの激しいシャウトにもそれほど驚きを感じないし。中盤から後半にかけては、ロシアの民族弦楽器やテルミンを後ろで鳴らすフォークトロニカや、いっそクラブ向けに振り切ったようなエレクトロニカが散見され、こういった方がらしさというか特性が出ていると思います。なのでもう少しステレオタイプな方向性でも良かったかなと。決して悪い作品ではないのだけど、改めて前作「anDEATH」の土臭さが見事だったという感想に落ち着きます。しかしユニットの活動は本作で終了したのは残念。