MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

島みやえい子 / EIKO SHIMAMIYA PRODUCE 5TEARS Vol. 3 ~Sweet Dragon~

  I've出身シンガーソングライターによる企画盤(2013年)。

 

 コミックマーケット85限定販売、シリーズ第3弾。過去2作は(基本的に)自身が制作した楽曲を5名のボーカリストが歌うという形だったけど、今回は逆転し、5名の外部クリエイターによる楽曲に島みやえい子が詞を書き歌うという構成。参加した作家は所属は様々ながら、井内舞子を始め同人音楽やアニソン/ゲーム音楽等で実績があり、かつ彼女をよく知る人物が並び、企画盤としても彼女の純粋な新作としても受け取れそうな作り。と同時に、自作曲やI've以外の楽曲を歌う機会は過去ほとんど無かったのを考えると「新たなる挑戦」と本作に銘打たれているのも決して大袈裟ではないんですね。過去のイメージを覆す──とまでは言わないけど、良い意味であまり敷居の高くない、コンパクトなポップソングが5曲5様。中でもギターリフが印象的な「Control」や、ダークエレクトロ×EDM(?)な「survivors note」は、どちらも「ひぐらしのなく頃に」関連曲とはまた一味違うダークさをダンサブルに聴かせるし、近年では全く見られなかった作風なだけに新鮮。また副題曲「Sweet Dragon」はお手の物と言える雄大な3連バラードながら、語り部に徹したような抑揚の少ない不思議な歌い回しが、美しいコーラスと相まって神々しさを覚えるほどだし、ボーナストラックの書き下ろし曲「new song」も、未来へ誘う希望と勇気に溢れた楽曲で、いずれも彼女の過去の名曲と照らし合わせても全く見劣りしない。どれもここでしか聴けない楽曲ばかりだし、十分にベテランの域にありながらも更なる可能性を証明するような若々しい作品だけに、一般流通しなかった(多分)のが惜しい。

 

Zeromancer / Zzyzx

Zzyzx

Zzyzx

 

 ノルウェー出身のインダストリアルロックバンドの3rdアルバム。

 

 タイトルは実在する地名から取られていて「ジージックス」と読むようです。彼らがツアー中に目にした道路標識が元ネタなんだとか。なかなか粋ですね。さて本作ですが、まず最初の数曲を聴き、ジャケットのイメージ通り?明るくソフトな聴き心地になっていて軽くビックリ。過去作はデジデジ・ビリビリしたサウンドで(何だそりゃ)野心たっぷりといった風情だったけど、もうそういうのから卒業したぜと言わんばかりに、どっしりと構え地に足の着いたシンプルなロックで、穏やかな歌モノとしての完成度を追求しています。テンポが速かったり高音で歌い上げるような派手さは皆無だけど、切なく優しく染み渡るメロディが秀逸だし、曲によってはピアノをピンポイント的に使ったり、アコギのストロークも取り入れたりと、歌や曲を自然に引き立てることを意識したような趣。近いところで例えると、FilterやStabbing Westward(の4th)のようなポストグランジっぽさも。とは言え彼らは元々サウンドやビート以上に歌メロを軸としていたので、今作でクオリティの向上も含めようやくそこのピントが合った結果であり、いわゆる急な路線変更とかそういう印象はないですね。シンセや打ち込み等の存在感もちゃんと残ってるし。まぁ最終的には「曲が良いから」に尽きるんですけど。中盤あたりには以前の路線を進化させたようなヘヴィなノリの曲もあったりして緩急をつけているのも良い。総じて、これは名盤!とまでは言わないけど(失礼)、飽きずに付き合えそうな佳作といったところ。

 

girugamesh / 鵺 -chimera-

 4人組ロックバンドのミニアルバム(2016年)。

 

 前作「gravitation」から1年4カ月ぶりの、同じくミニアルバムでのリリース。タイトルはあらゆる動物のパーツを持つ怪物の名称で、それを自分たちの音楽や立ち位置になぞらえるという何ともクリティカルな表現。ヴィジュアル系ともラウド系ともとれるし、同時にそのどちらでもないという自負や信念がこれでもかと詰め込まれており、名は体を表すを地で行く、まさにギルガメッシュとしか言いようがない楽曲の応酬。スクラッチやスラップベースをアクセントに軽快に聴かせる「slip out」、ダブステップやシンセの要素を強めた「wither mind」、ガバ風の高速ビートとポップ期のようなメロディが印象的な「Horizon」と、メタルコアに振り切った前作の重さや激しさを継承しつつも、元より得意としていた武器も加え、バンドの集大成のようなスタイルを見せています。しかし、歌詞に関しては未来へ向かうポジティブさを感じさせた前作とは一転、諦め・皮肉・コンプレックスのようなネガティブが炸裂。タイトル曲「鵺 -chimera-」では攻撃的なリフ/シャウトに合わせ自らを強く貶め、ラストの「END」に至っては物悲しくアコギが響くヘヴィサウンドで絶望を訴えながら散っていく、と特に強烈。活動の幅を広げていく中で得た収穫だけでなく、躓きや苦悩もストレートに反映させたかのような重苦しさのある、精神的にもヘヴィな作品となっています(だからこそ、最後のリミックスは要らなかった…)。そして、歌詞の顛末を体現するかのように、本作から半年も経たないうちに解散を発表。彼らの強みが生かされた抜群に格好いい作品だっただけに、非常に残念でした。

  

MAKO / THIS IS HOW

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 I've専属ボーカリストの2ndミニアルバム(2013年)。

 

 コミックマーケット85限定販売。同じくコミケ流通の前作から丸1年ぶりの音源で、全5曲という部分も前作を踏襲するものだけど、今回の新曲はすべて彼女の手によるもの。1曲だけ作詞作曲していた前作から明らかに手を広げており、シンガーソングライターとしての素養を固める作品となっています。ノンタイアップかつコミケ流通というマイペースな展開もあいまって、終始リラックスした空気で一貫しているのも特徴的。編曲はI've作家が均等に参加し、全体的にクラブ向けのアレンジを施し彼女の楽曲をサポート。ストリングス/ピアノを重用した透明感のあるシンセポップも安定の出来だけど、R&B風に仕上げた「Happy Ever After」や、彼女がI'veのみならず人生で初めてレコーディングしたという約13年前(!)の代表曲とも言える楽曲のリアレンジ「bite on the bullet -Acoustic ver.-」など、I'veのイメージをちょっとはみ出た感じの楽曲も、彼女の雰囲気のあるハスキーな声との相性を再確認させられて捨てがたい。I'veの中でも確かな実力と稀有なポジションを証明するかのような一枚だし、それだけに今後にも期待を寄せずにいられなかったのだけど、リリースは本作が最後となり、2015年のイベントを境に活動を休止。どうやら海外に移住されたようで、そこは仕方のないことか。結果短期間にはなったものの、10年ぶりにI'veで歌ってくれただけでも有り難いことでした。願わくば、また彼女の歌を聴ける日が来たらいいなと。

 

Vampire Rodents "Lullaby Land"

Lullaby Land

Lullaby Land

  • Rodentia Productions
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 アメリカ/アリゾナ出身のアヴァンギャルド/インダストリアルバンドの3rdアルバム(1993年)。

 

 前作が好評でインダストリアル系のレーベル・Re-Constriction Recordsに見い出され、そこからリリースされた3作目。彼らの作品の中でも傑作の部類だという話です。まず気づくのは、コラージュ/サンプリングにまみれ混沌としていたサウンドから憑き物が落ちたかのようにシンプルになっていること。前作に続き専用プレイヤーのチェロ/バイオリンを有効的に使いつつ、ギターにも重点を置かれ、ガリガリと乾いたエレキギターが常時どこかで鳴っているようなスタイルになり、それぞれの楽器の鳴りがくっきりしていて比較的アンサンブルが分かりやすくなっている印象を受けます。ただしホラーっぽさは変わらず折り重なりもあくまでも複雑だし、何の前兆もなく急にスパッとテンポチェンジしたり場面転換したり、時には全く異なるタイプの曲調に繋がっては戻ったりと、横の展開(?)の目まぐるしさが強化。何となしに聴いていると「ん?いま曲変わったのかな?」と頭がこんがらがることも。サウンドのみならず曲展開すらもコラージュ多用とあって、初めて(1stアルバムと勘違いして)聴いたときは頭の上に「?」が浮かぶだけでした。でも改めて過去作から順番に聴いてみると、彼らのクラシック/前衛音楽などのルーツや、BabylandやChemlabのメンバーとのコラボ、ジャズ/民族音楽などにまで手を広げたコラージュセンスがここで実を結び、彼らなりの傑作たらしめているという評価にも合点が。この一歩間違えばグチャグチャなのに成り立っている不思議さ、「そういう音楽」と捻じ伏せる存在感は、体験する価値があったと個人的には思っています。