MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Skinny Puppy / The Process

Process

Process

 

 カナダ出身のインダストリアル/EBMユニットの8thアルバム。

 

 1995年に(一度)解散した彼らの(当時の)最終作。古巣のNettwerkからレーベルを移り、1993年から1995年にかけて制作が行われるも、様々な事情によって難航。一度は中止、更にはグループ存続の危機に陥る中、メンバーのDwayne Goettelがオーバードーズで逝去。それが大きな引き金になり解散した後、彼への追悼作品として完成されリリースに至るという経緯がある作品です。特徴的なのは何と言っても強力なメタルギター/ギターノイズの導入。近い謳い文句だったかつての作品「Rabies」を大幅に凌ぐほどに攻撃的なギターを主力に置いて躍動的にテンポを刻むサウンドは、瞬間的にはKMFDMを彷彿とさせるほどにスタイリッシュで驚き。しかし電子ノイズの絶妙な活躍や、覇気や感情が喪失したかの様な独特なボーカルまで含めると、やはりどこか異質めいた魅力は健在だと認識させられるし、シンセやピアノの音色をシンプルに生かしたスローナンバーには、以前には無かったレベルで「歌」を感じさせ、それこそどこか死を悼むような悲哀さや物悲しさが赤裸々に表出しているかのようで、Skinny Puppyらしいケミカル&グロテスクな雰囲気はかなり薄れている一方でも、まるで流線形のような端正なフォルムで、ステロタイプなインダストリアルメタルとは一枚も二枚も上手の存在感と完成度を証明しています。これぞ流線形ゾンビ。何だそれ。彼らの代表作としてよく挙がるもの・相応しいものとはまた異なるというのは重々承知しているけど、例え邪道と言われようと、彼らの作品の中では個人的にトップクラスで好きな作品だったりします。これが格好良くない筈がなく!

 

 

SCHAFT / SWITCHBLADE

SWITCHBLADE

SWITCHBLADE

 

 BUCK-TICK今井寿SOFT BALLET藤井麻輝を中心としたインダストリアルユニットの1stアルバム。

 

 1991年に結成され、知る人ぞ知るオムニバス盤「DANCE 2 NOISE 001」に参加した後、1994年に本格始動しリリースされたオリジナルアルバム。上記2人を核としつつも、Raymond Watts (PIG)を主要メンバーに迎えた体制で、更に楽曲ごとに制作に関わった人物は国内外問わず多岐に渡り、プレイヤーとしてCRA¥、MOTOKATSU (THE MAD CAPSULE MARKETS)、諸田コウ (DOOM)、DJ PEAH (M-AGE)、Marianne Faithfullのカバー「Broken English」のボーカルにJulianne Regan (All About Eve)、「inFORMation」の共同作業にJonny Stephens (Meat Beat Manifesto)、ミキサーにはCoil、Autechre、 Keith Le Blanc (Tackhead)など、挙げるときりがない程の錚々たる面々。楽曲もそれぞれ方向性はバラバラで、アンビエント、ダブ、エレクトロニカ、インダストリアルメタル、エスノ、アブストラクトヒップホップといった要素がごった煮の闇鍋状態。それでもやはりノイズを帯びた音響的なこだわりなどは全編に見られ、実験/前衛性の高さという点では一貫しています。Raymond Wattsが主導した楽曲はぶっちゃけほぼPIG(もしくはWiseblood風)なのだけど、トリッピーな楽曲が並ぶ中でそのアグレッションはいいアクセントにも。歌を聴かせる楽曲は皆無に近いけど、難解ながらも耳を離せない中毒性や、聴く度に新たな発見があるかのような深さは、まるで小宇宙のよう(変な例え)で、時代を選ばないというか、後追いで聴いても、それこそ二十数年経った今でも(今でこそ)凄みを感じずにいられないですね。ジャンルも洋/邦の壁も超えまくった、色んな意味で奇跡的とも言える一枚。CDに入る限界までやり尽くしたような78分超のボリュームは、聴く側にも気合いを要求されるところもあるけど、参加ミュージシャンに1つでも興味を引かれたら、見つけ次第即買いレベルの逸品でしょう。 

 

詩月カオリ / GOING ON

GOING ON

GOING ON

 

 I've専属(当時)ボーカリスト/シンガーソングライターのミニアルバム2作目。

 

 前作より約4年半ぶりとなるミニアルバム2作目であり、本作をもってI'veから卒業となった彼女のI'veラストアイテム。彼女がI'veで担当した楽曲やリリース作品は、他の面々に比べると控えめではあるけど、それでもベスト盤を作れるくらいの量は十分。しかし、彼女自身が書いた楽曲のみで構成された作品は(メジャーでは)初めてだし、シンガーソングライターの出発点とも言える新作でI'veの活動に幕を下ろすというのも、一種の決意の表れだったり、卒業後の活動に繋ぐためのI'veの後押しっぽくて、それはそれで良い収まり方かも。内容もシンセ/デジタルポップでは一切ない生音/アコースティック系アレンジだし、彼女が本来やりたいことを具現化したものなのでしょう。歌詞においても、出会いと別れ、未来への決意や希望などがストレートに綴られ、それを歌う「静かなる強さ」とでも言うべき彼女のボーカルを聴くと、(役割的に)可愛げの強い楽曲が先行しがちだった昔を思うと「立派に成長したなぁ…」と感慨にふけること間違いなし(えっ)。ただ、過ぎ去った過去に対し少しネガティブな言い回しが多いような気もするので、まさか電波ソング歌うのそんなに嫌だったの?とか深読みしてしまいます(笑)。スパニッシュギターをフィーチャーした「セツナ」は風変りで印象的だし、パーカッシブな名演が光る「GOING ON ~光へ~」も彼女の集大成のような名曲。もっと色んな曲を歌いI'veで活躍するところも見てみたかったし、今後の彼女にも期待を寄せてしまう、そんな一枚。

 

PIG / Pigmata

Pigmata

Pigmata

 

 UK出身のRaymond Wattsによるインダストリアルプロジェクトの7thアルバム。

 

 PIGではなく新たにWatts名義で2004年にUKで発表したアルバム「Pigmartyr」をリマスター&新曲を3曲追加し、「Pigmata」に改題してPIG名義で翌年USでリリースし直したもの。リアルタイムで追った人にはお騒がせな作品かも知れないけど、どうやら「Pigmartyr」の方はレーベル側の不備で音質や販売等の面で不遇だったようで、再発によってその辺りが救済されたような格好らしいです。そんな本作、確かに音が良いというかクリアで迫力十分で、自然に耳がいくのがラウドなギターとドラム。近々の制作陣に新たにKMFDMのドラマー・Andy Selwayを加えたことで、ほとんどKMFDMになり まずドラムが目立つ。タム回しからバスドラ連打、そしてクラッシュをバシバシ打ち鳴らす仕事ぶりは、過去の打ち込みメインのPIGには無かったアグレッシブさ。そしてギターに関しても、以前までの"PIGの音像を作り上げるパーツ"的な取り入れ方とは異なり、本作では完全にサウンドの要で、総じて「バンドサウンド」「ライブ感」が強調されたかのようなスタイルに。ダークで激しめのサウンドはそれだけで一定の格好良さがあるけど、元来の低く潰れて唸り声同然のボーカルと同化しまくってやたらヘヴィだし、オーケストレーションのアレンジやラテン系の楽曲などのお家芸アプローチも影を潜め、テンポもそう速くないので、全体としてはその統一感が裏目になり地味な印象が先行してしまうのは否めないところ。そこがやや残念ではあるけど、個人的には結構好きな一枚。ちなみに、藤井麻輝と共作しSCHAFTで発表した「Arbor Vitate」と、櫻井敦司のソロ作に提供した「YELLOW PIG」のセルフカバーも収録されているので、興味がある方は聴き比べると面白いかも。

 

101A / LETHE

lethe

lethe

 

 3人組ポストロック/シューゲイザーバンドの3rdアルバム。

 

 サポートドラマーとして参加していたSallyが2007年に正式に加入、3人体制となってからは初となるアルバム。だからというわけでもないだろうけど、まさに満を持したというか、バンドの本領発揮を感じさせる力作となっています。オープニング「雪の世界」から、軋むようなギターや変則的なリズムの妙、そしてそこに乗るnoahの溶け入るようなボーカルによって幽玄な空間が作られ、いきなり緊張感はMAX。その後も、アルバムの世界観を露にする朗読のトラック「LETHE」を挟み、ラフでヘヴィなグランジをバックにnoahが挑発的なボーカルで暴れる中盤にしても、相反したギターによるサウンドスケープに甘いウィスパーボイスを乗せたシューゲイザーを放つ終盤にしても、楽器の鳴りや響きの細部まで気を払い、混沌・虚無・恍惚といった具合に表情を自在に変化させるサウンドメイクと流れの良さで、聴き手の心を侵食していくかのような魅力を放ち続けます。ラストの「lull」は1stアルバム収録曲「mekurauwo」のリメイクにあたるのだけど、それを聴き比べると彼らの進化具合がよく分かるし、本作には、例えば前作で言う「grief coast」「corona」のような歌メロが立っていて比較的聴きやすい曲はないと言えばないけど、個人的には全く物足りなさを感じないほどに惹き込まれました。acid androidyukihiroも絶賛したという逸話もあるようで、その界隈のインダストリアルやポストロック、あとは睡蓮とかが好きな人にはとっても相性が良さそうな一枚(ただし入手困難)。

【23:00追記】iTunesで購入できるとのご指摘を頂きました。ありがとうございました。