MECHANICAL FLOWER

機械、金属、肉体、電子、幻想、前衛…そんな音楽が好き。

Skinny Puppy / Last Rights

Last Rights

Last Rights

 

 カナダ出身のインダストリアル/EBMユニットの7thアルバム(1992年)。

 

 彼らが標榜していた音楽性の一つの到達点である4th「VIVIsect VI」や6th「Too Dark Park」とはまた異なる方向で、彼らの美学が究められた作品。一聴して耳に入るのはシンセオルガンやシンセストリングスの多重演奏で、それが荘厳な奥行きや叙情性を獲得するだけでなく、表裏一体で不協和音やノイズとしても牙を剥く。その反動が効果的に作用する不気味な音像や、これまでに築いたインダストリアルの実験/攻撃性、地鳴りのようなダークアンビエント音響などが濁流となって聴く者を圧倒します。その切迫感たるや、まるで静かに世界が闇に飲まれていくような、または得体の知れない力で世界が崩壊していくような、まぁどっちにしても滅ぶんですけど(笑)、さしずめ地獄の交響曲。全体的にローテンポなのも逆に凄みが効いています。後半のバラバラに刻まれたような実験曲の存在感も含め、インダストリアル/EBMの枠だけでは語れない領域までぶっ飛んでしまっている印象すらあります。多くのEBMアーティストがピークアウトしていった当時の時代の流れにおいて、これほどの作品を生み出して更なる高みに上ったのは流石としか言いようがありません。

 

CELLCODE / 「Clue」「Aim」

Clue

Clue

  • East link Records
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Aim

Aim

  • Eastlink Records
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 元PIERROT/現Angeloのボーカリスト・キリトによるCELLCODE名義での楽曲。

 

 彼が同時期に発足した総合ソロアートワークプロジェクトのWeb用に作られた楽曲。元々はインストBGMを想定していた音源を制作する過程で、ちゃんとした楽曲として完成させるよう予定を変更しリリースとなったとか。歌回りだけでなく全ての演奏やプログラミングを自身が担当するという非常にパーソナルな性質だけど、打ち込みサウンドの追求というよりはAngeloのデモ音源のようというか、少なくとも音源の完成度としては完全に発展途上で、普段デモをこんな風に作ってるんだろうな~と想像が膨らむ感じ。曲としてはどことなくAngelo「MICRO WAVE SLIDER」に似てる気もする。どうせならもっと好き勝手マニアックに突っ走って完成度を高めれば、Angeloともソロ名義とも全く異なる音楽性として日の目を見ていたのかもと思うと惜しい気もするけど、さすがにそこまでコストは掛けられないか。宣伝なし&配信のみでひっそりリリースされていたり、どこまでも "キリト節" から逃れられない曲調やボーカル/メロディなんかをみるに、あくまでコアファン向けの音源であり、そういうのをむしろ望むところだと思える人が聴くものなんだろうなと。彼の歌が打ち込み丸出しなサウンドに乗るのは案外珍しいので(過去には藤井麻輝によるリミックス曲くらい?)興味のあるファンは聴いてみては。

 

girugamesh / Girugamesh

Girugamesh

Girugamesh

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 4人組ロックバンドの2ndアルバム(2007年)。

 

 プロデュースやコーラスなどに昵懇の先輩バンドであるムックのメンバーが一部参加。そんな心強いバックアップに加え、1stアルバムとの間に意欲作ミニアルバムを挟んだ成果も手伝ってか、大きな成長を感じる一枚。楽曲単位でみても、クオリティの上昇はもちろん小技の使い方や緩急のつけ方、全体でみても振れ幅の拡大といった部分は明らかに進歩しているし、アグレッシブな楽曲の連打で圧をかける前半、タイプの違うメロディアスなナンバーで魅せる中盤、感情を吐き出しシリアスに散っていく終盤と順序立てた流れも秀逸。荒削りで単調気味だった1stと比較すると全体を通して格段に聴かせてくれます。Slipknotの影響というより模倣の「stupid」やタイトルまんまダンサブルな「Dance Rock Night」といった変化球を盛り込む余裕も含め、総じてここまでの彼らの "黒スーツを纏ったヴィジュアル系ラウド時代" の集大成的内容。セルフタイトルを冠したのもそういった自負の表れではないかと。ヴィジュアル系と言っても自己陶酔的な儚さなどとは無縁の "男魂" が根本にあるし、そのサウンドは海外でも受けたらしく、本作リリース後はヨーロッパツアーに出たり、世界的メタルフェスのWacken Open Airへの出演も果たしたりといった展開にも繋がったようです。

 

Revolting Cocks / Beers, Steers & Queers

Beers Steers & Queers

Beers Steers & Queers

 

 MinistryのAl Jourgensenによるサイドプロジェクトの2ndアルバム(1990年)。

 

 ライブアルバム(未聴)を挟んでのリリース。まさに1stで確立した路線をそのまま突き詰めて順当に完成度を高めたという感じで、強靭なダンスビート/ハンマービートの上をタフなベースラインと自由度の高いボーカルと悪ふざけのようなサンプリングが往来する怒涛の変態EBM。1stにあった無機質さや未完成な余白がきっちり埋められ、喧噪と享楽をモットーにしたかのようなファンキーなインダストリアルダンスが圧巻の一言だし、曲によってはMinistryがメタルギターを取り入れ始めた1989年前後の作品がまとうおどろおどろしさやスリリングさも合わせ持っており、その落差もまた格好いい。もしかしたらいい意味で影響を与え合っていたのかも。その辺りのサウンドが好きな人にはジャストだと思うし、個人的にはこの自由かつ粗暴なパワーは初期のFoetusを思い起こさせるものもありました。EBM愛好家にはメタル化以降のMinistryよりも評価を高くする向きもあるというのも納得。彼らが(2006年の復活以前に)残した3作品の中では随一の傑作なのではないでしょうか。

 

girugamesh / Reason of crying

 4人組ロックバンドのミニアルバム(2007年)。

 

 前フルアルバムから約10カ月ぶりとなった、書き下ろしの楽曲5曲(+α)で構成されたミニアルバム。ヘヴィなサウンドを軸に置いたスタイルを踏襲しながら、一部で必要に応じて打ち込み(スクラッチ、リズムトラック、ピアノ等)をアクセント的に取り入れるなどの変化があり、ボーカリスト・左迅の歌にも大きな向上が見られ、時には激しいシャウトからラップまで自在に歌いこなす。こういった表現の拡大がそのままバンドの個性の強化に繋がり、明らかなパワーアップが見て取れます。特にオープニング曲「Real my place」は切れ味からしてそれまでと一線を画すフックがある佳曲。何でこの曲が後のベストアルバムやラストライブに選出されなかったのかが個人的に不思議なくらい。また通常盤のみに収録された限定シングル曲「お前に捧げる醜い声」も、ムックの「茫然自失」の大きな影響を感じるけど、ひたすらに激情を叩きつけるその猛烈なパワーでライブの定番かつバンドを代表するまでになった必聴曲。彼らのその後の躍進に繋がった作品ではないかと思います。